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新★リーダーシップ論 第1回 いかりや長介

高木ブー「年が近いオレを怒られ役にしてドリフをまとめた」
 わが国の宰相の悲惨な行状を見るにつけ、今ほどリーダーの資質が問われている時はないと言えよう。そこで、真のリーダーシップとは何かを、著名な「リーダー」を間近で見てきた人たちへのインタビューで探っていく。連載第1回は、ザ・ドリフターズのリーダー・いかりや長介を、高木ブーが語り尽くす!

「集まれ」と号令をかけて

 リーダーは、はっきり言えばワンマン。ワンマンじゃなくちゃダメですよ。それと、ドリフターズの場合はメンバーに年齢差があった。これが大きい。長さんはワンマン的リーダーシップに、「年齢差」をうまく使っていたように思いますね。志村(けん)がいくら主張したって、長さんとは20歳以上の違いがあるわけですから。長いこと活動できたっていうのは、そういうことも根底にあったと思いますよ。
 ただし、これはコメディアンとしてね。バンドとしては別。それぞれ、担当している楽器が違うんだから主張はある。オレにベースが弾けるかと言われれば困るし、加藤(茶)ならドラムだし。でも、番組内などで、グループを「まとめる」という意味では長さんの力が大きかったね。
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 こう話すのは、ザ・ドリフターズのメンバー・高木ブー(78)だ。今や、伝説となった国民的バラエティ番組「8時だョ! 全員集合」(TBS系)が真っ先に思い浮かぶザ・ドリフターズ。例えば同番組は、16年にわたる長期の放映ながら平均視聴率が30%を超えた怪物番組だった。
 個性あふれる5人のメンバーを巧みに率い、テレビの王様の座を守り続けたドリフターズのリーダーである故・いかりや長介(享年72)について高木が語る。
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 でも、やっぱり、長さんはひと言で言えば厳しかった。例えば、「全員集合」。土曜日の夜の生放送に向けて、リハーサルが始まるんだけど、まず木曜日の15時から夜0時まで次の週のコントを作っていく。そして金曜日が本番(土曜日)の立ち稽古。地方での収録となると、当日は午前10時入り、すぐ稽古が始まって、
「場当たり」というものがあって細かくやり、カメリハ、ランスルー(通し)、本番となる。つまり4回やるんだよね。
 中でも、特に木曜日のリハーサルは凄かったよ。脚本家が来るんだけど、だいたい、ダメ。でも、やめちゃうわけにはいかないので、みんなで考えましょう、ってなる。そんな時、知らない人がその場に来たら、みんなびっくりすると思う。1時間、2時間、シーンとしてみんな考え込んでいる。ホント、音なんてしないですよ。タバコの煙だけがモクモクしていてね。そんな中、長さんは横になりながら考えている。まあ、オレは何も考えることはないんだけどさ(笑)。
  そしてしばらくすると、長さんが、「集まれ」と号令をかける。で、
「これじゃしょうがないから、ここんところはどうかな」
 って。でも、そんな時は長さんが独断で決めるんじゃなくて、みんなに言わせるようにしていた。加藤のところなら加藤に、って具合にね。そこで加藤なり志村なりが、
「こんなのどうですかねえ」 と言って、その場で立ち稽古が始まる。それを長さんが見ていて、「それ、いいじゃん」と。オレなんて、何にもできないから、
「ブー、お前、こんなのできるか」
 ってさ。ひとりひとりのキャラクターを集めて、コントに当てはめていくんだよね。厳しく。
 ただ、決して殴ったりはしないですよ。殴ったらケンカになっちゃう。特にオレらみたいに芸のできないヤツに関してはね。
 だからといって、長さんがいちばんうまかったというわけじゃないんですよ。加藤や志村には、かなわないところはいっぱいある。
 でも、全体の構成、流れを決めていくのは、やっぱり、長さんなんだよね。演出家としての才能は、やはり凄いモノがあると思う。

本当に怒った時のサイン
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「全員集合」は公開収録生放送がウリの一つ。それだけに、関わっているスタッフの人数も膨大で、裏方さんを含め、常時200人ほどで収録に臨んでいたという。それだけに、その人数をまとめるいかりやも、さまざまな"手練手管〟を駆使していたという。
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 初めて話しますが、周囲の人には長さんは厳しい、怒っているイメージがあると思うけど、実際、本当に怒っていたのは半分くらいだと思う。
 裏方さんだって、セットを作ってくれる人なんて、棟梁みたいな人がやってくれている。みんな、それぞれの長ですよ。個性が強いし、いろいろうまくいかないこともある。だからこそ長さんは、だらけた雰囲気を引き締めるためにタイミングを見計らって怒るんですよ。ワザと。そんな時、ミスをした人の中で、対象となるのは決まって、オレなんですよ。 「ブー、何やってるんだ。バカヤロー!」
 って。すごく大きな声を出すからね。もともと怖い人なのに、それがどなりまくるんだからもう…。でも今考えれば、あれはあってよかったと思う。やはり、上に立つ人としてはね。てっぺんなんだからさ。実際、小さなミスが危険につながることがあるんだから。僕自身、ケガをしたこともあるし。
  それと、トータルで見た構成、時間のコントロールも考えていたと思う。1時間番組で、だいたい、放映時間は45分くらいになるわけだけど、アドリブをやっちゃったら時間内に入らない。これは絶対、許されないことなんだね。もちろん、コントですから、動く時もあるけど、アドリブをやったら必ず元に戻す。それは厳しかったです。台本どおりやらなくちゃいけない。現場には緊張感があった。
 でもね、長く怒られていると、本当に怒っているのかどうかがわかるようになる。長さんが、
「ホントに怒ってるんだぞ!」
 そんな時は、それこそ本当に怒ってる(笑)。
 そういえば、ある日、唐突に怒られたことがあった。今日、オレ何もしてないのに‥‥
と思ったら、他の人がミスしているんだよね。でも、そこは"怒られ役〟のところに来るわけ。
 でも、オレが怒られ役になるのには理由があるんだよね。長さんとオレは年が2つしか変わらない。仲本(工事)、加藤は10歳近く違う、で、あと10 歳離れて志村..。何か言うとなると、オレになっちゃうんだよね。
 実際、他の連中が長さんとは飲みに行くのを見たことなかったね。みんな、9時になると、「お疲れさま.」って。
 で、オレが誘われるんだけど、焼き鳥屋とかが多かった。その時の話といったらグチですよ。年齢が近いからグチもこぼせるわけで、加藤だの仲本だの、志村だったらケンカになっちゃいますよ。そこらへんは考えていたんでしょうね。
 これがリーダー論と言えるかどうかわからないけど、相手による接し方の使い分けですよね。
 あと、長さんはこんなことを言ってましたよ。どんなに怒ったりしても、「オレのほうから辞めろとは絶対言わない」ってね。(脱退した)荒井(注)さんの場合は自分から辞めると言ったわけですから。だから、オレは安心してやっていた(笑)。ケツまくって辞めるということはできるけど、辞めたっていいことなんかないし。
 ちゃんとそこらへんも、わかっていたのかな。

基本的に神経質な人だった
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16年間続いた"怪物番組〟も時代の流れとともに、その役目にピリオドを打つ時が来た。85年、「全員集合」が終了。その後番組としてスタートしたのが、特に子供に人気があったドリフの若手2人組、加藤茶と志村けんによる「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」であった。結局、この番組も7年間にわたる人気番組となったが、ドリフターズは解散したわけではなかった。高木、仲本、そして、いかりや自身の「戦略」も立て直さなければならなかった。
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「全員集合」の時は、5人の方向性をどう持っていくかという問題があった。実際、相談もしましたよ。で、リーダーが出した結論は、初期は加藤を、あの頃てっぺんにして4人が下でそれを助けていくというもの。志村が来るまではね。加藤や志村は自分からいろいろ言える人間だし。オレはできないから、それがわかっている長さんが、
「ブー、こっち来いよ」
 となる。
 でも、ドリフターズのリーダーとして公平にやらなくちゃいけない、という気持ちはあったと思う。「全員集合」のあとに「加トケン」が始まって、加藤と志村が2人でやることが多くなった。すると、3人余っちゃうんだよね。そこで、考えたのが「ドリフの大爆笑」(フジテレビ系)でのキャラクターづけ。コントで言えば、「雷さん」とか、「トリオ・ザじいさん」、それに、「バカ兄弟」とかね。まあ、仲本とオレ、長さん、数の埋め合わせなんだけど、結果的にショートコントという形でみんなを生かす方向に持っていった。  やはり、演出家、そしてドリフターズのリーダーとしての自覚があったんじゃないかな。怒るし、煙たがは加藤人気ですから、彼をられることもあったけど、基本的に神経質な人だからさ。だって、長さん、新幹線の中でも眠れない人なんだよ(笑)。
 そういえば、亡くなる何年か前、こんなことがあった。晩年、役者としての長さん凄かったじゃない。ある日、「踊る大捜査線」のロケのあとだったかな。久々に一緒に飲む機会があってね。そうしたら、こう言うんだ。
「オレは今、楽だなあ」 って。
「どうして?」 と聞いたら、
「今までは、演出をしなきゃならなかった、5人のね。ドリフターズとしての演出をしなきゃならない。今はそれがない。演出家がいて監督がいて、楽だよ」
 って。そうそう、その時、長さんにこうも聞いたんだよね。いまさらだけど、
「何で、オレをドリフターズに誘ったの」 って。そしたらひと言。
「見た目だよ」
 だって(笑)。でも、それがなければオレの人生は、まったく変わっていた。もともと、コメディアン志望じゃなかったんだし。
 やはり、長さんはオレにとって、大切な恩人の一人。ともかく、演出家として、そしてリーダーとして凄いと、認めざるをえないところがある人だったね。

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