昨年暮れに競馬ファンを驚かせた「払い戻し金30億円」を巡る「外れ馬券裁判」。会社員は「27億円のハズレ馬券代は必要経費」として無罪を主張し、2月に行われる第3回公判に注目が集まるが、一方で気になるのは会社員が使用していた「競馬予想ソフト」の存在だ。最先端の技術はいかなるものなのか、開発者がその内幕と馬券術を明かす。
競馬ファン300万人の大多数にとって“30億円男”のように「1年間の馬券購入額9億円」というのは絵空事だが、「競馬予想 ソフト」開発者たちにとって「年間収支1億円」は、決して夢物語ではないという。昨年の回収率120%オーバーを誇るソフト開発者のA氏が解説する。
「馬券で儲けるための大きな壁は『25%控除』(単複は20%)と『一時所得』扱いによる2重の税金徴収構造です。日本は世界的に見ても高い控除率で、売り上げの約75%しか払い戻されません(10%は国庫納付金)。そのハードルを自慢のソフトで越えても、さらに税務署が待っている。この会社員のようにネット経由の自動システムで大量に購入する人は、(予想ソフト)開発者の中には一人もいません」
理由はズバリ、目立たないように気を配ることだ。A氏が続ける。
「1年間の合計で約90万円以上の払い戻しを得れば、誰でも申告の義務があるわけで、理不尽だと思えるけど“脱税”に変わりはない。そのため、私は別名義で3つの口座を使い分け、1日の払い戻しが100万円を超えないようなシステム設定にしています。この金額を超える場合は場外で購入するので、WINSの近くに住んでいるぐらいです」
もし、今回の裁判で外れ馬券が「必要経費」として認められるようであれば、予想ソフトを売却する開発者も増えるのではないか、とA氏は予想する。
「私なら株などの投資会社やデータ分析会社に売り込みますね。競馬の予想ソフトは個人で扱うからこそ、配当的な妙味がある。いくら優秀で高額なソフトでも一般に流通してしまえば回収率が落ちて平凡なソフトになってしまう。だからソフト技術を求めている会社に売り込むわけです。仮に今回告発された会社員のソフトを売れば、7000万円以上と言われています」
実際、08年には株式市場などの分析を事業目的とした会社が、馬券で大儲けしていたことがあった。社会部記者が振り返る。
「英国人が社長を務める都内のデータ分析会社が、渋谷の場外馬券場にパソコンを持ち込んで荒稼ぎし、国税局から約160億円もの所得隠しを指摘されました。重加算税を含めた追徴税額は60億円以上。ただ、資産の一部が国外に移されていて約30億円の徴収が困難に。社長も国外に出国してしまい、結局、告発は見送られたようです」
データが豊富で、売り上げ約2兆円を誇る日本競馬は、敏腕ソフト開発者たちにとっては“ドル箱市場”に映るようだ。