野球界を制した男は競馬界も制す。マウンドからターフへと活動の場を移し、悲願のGIタイトルも獲得。今、最もノッている馬主といえば、あの大魔神である。だが、順風満帆に見える馬主人生の陰には、天才騎手を巡る苦悩と呪縛があった。
「今は野球界の人間ではなく、競馬界の人間です」
日本ダービー翌日の5月27日、都内のホテルで開催された、さる競馬雑誌主催の懇親会で、佐々木主浩氏(45)はこう演説した。言わずと知れた、横浜ベイスターズ(大洋ホエールズ)、シアトルマリナーズで日米通算381セーブを記録した、あの大魔神である。懇親会に出席した競馬ライターの平松さとし氏が言う。
「ライターやJRA職員など参加者は100人ほどで、佐々木氏の他にアンカツさん(安藤勝己元騎手)もおられました。皆、口をそろえて『佐々木さんのような人に競馬界を盛り上げてほしい』と言っていましたね」
佐々木氏といえば、5月12日のヴィクトリアマイルでGI初勝利を手にして勢いづく馬主。勝ったヴィルシーナ(牝4歳)は昨年の桜花賞、オークス、秋華賞、エリザベス女王杯で全て2着と苦杯をなめ、5度目のGI挑戦でついに悲願を達成した。ハマの大魔神が今や“ウマの大魔神”となって君臨しているのだ。
ひるがえってターフに君臨するスター騎手といえば、やはり武豊(44)を置いて他にいない。今年の日本ダービーでは1番人気キズナに騎乗し、5度目の同レース制覇。近年は不振が続くとはいえ、競馬界に武豊あり、をあらためて知らしめたレースだった。
この同世代の超有名スター2人がタッグを組めば、先の懇親会参加者の言ではないが、大きな話題となることに疑いの余地はない。ところが意外にも、佐々木氏が馬主となった06年から現在まで、その所有馬に武が乗ったことは一度もないのだ。
「佐々木氏が競馬界に参入したのは、アドマイヤの冠名で知られる大馬主、近藤利一氏(70)の協力があってこそでした。その近藤氏と武との関係が、佐々木氏と武の間に影を落としているのです」
表情を曇らせてこう語るのはJRA関係者である。
佐々木氏が06年に最初に所有した馬は、道営競馬のミスターフォーク。その頃、とある寿司店で近藤氏と知り合い、同氏に誘われる形で07年に中央競馬に馬主として参入することになったという。そして近藤氏との共同名義で持ったのがアドマイヤマジンだった。
「持ち分は佐々木氏10%、近藤氏が90%だったと聞きました」(馬産地関係者)
そして先のJRA関係者は2人の急接近ぶりについて、次のように話すのだ。
「佐々木氏が競馬場に出入りし始めた頃は、近藤氏にベッタリでしたね。牧場関係者や調教師などを紹介したのは全て近藤氏。セレクトセールでも佐々木氏は、馬の見方などを近藤氏から教わりました」
09年のセレクトセールで佐々木氏は、みずからが社長を務める会社「Sアールコーポレーション」名義で「フサイチパンドラの09」を7800万円で落札。これが現在のスペルヴィア(牡4歳・1000万下)なのだが、
「エスアールのエス=佐々木のS、アール=利一のRだそうです。それほど2人は親しいということ。『アクの強い近藤氏に連れ回されていて大丈夫なのか』といぶかる人も競馬サークルにはいましたけどね‥‥」(専門紙トラックマン)