もしザクーに頼んでいたら、あるいはコーナーキックの前に笛が吹かれていたのか‥‥。
田崎氏はザクーにも話を聞きに行っている。
「“伝説の代理人”とも称されるザクーは、ブラジルのメディアでさえも何十年も取材をしたことがなかった。僕の取材を受けるという話をしたら、地元のベテランジャーナリストたちも驚いていましたね。おもしろかったのは、彼からも『納谷は元気か?』という言葉が出たこと。そして決戦前夜に納谷さんと会ったことは認めた。さすがにそれ以上は語らなかったものの“含み”のある物言いでしたね」
さながら“闇フィクサー”として、納谷氏はサッカー界で暗躍していったのだ。
それでも、10代の頃からブラジルでサッカーをしていたカズが90年代に活動の拠点を日本に移すと、公式的には納谷氏との距離は開いていった。「キング」の周囲が、問題だらけの「不肖の実父」を煙たがったのは想像にかたくない。
だからといって、納谷氏のバイタリティは衰えなかった。肝硬変で生命の危機に立たされたこともあったが97年に臓器移植手術で奇跡の復活を遂げ、日本とブラジルを往復しながら息子2人を応援し続けてきた。
「実は最近、納谷氏とカズが行動を共にしている姿が頻繁に目撃されています。納谷氏とカズらの実母がずいぶん前から静岡で同居しているのは有名なのですが、現在、カズが所属する横浜FCの試合後に、カズ、実母だけでなく、カズのマネジャーらも一緒になって引き揚げていくことすらある。6月9日に国立競技場で行われた日本・イタリアOB戦にカズが出場したのも、大会に納谷氏が関わっていたからとの話で、ここへきて2人は蜜月関係になっているようです」(Jリーグ関係者)
その背景をサッカーライターが解説する。
「来年のブラジルW杯に向けてサッカー熱が高まる中、サッカー界を盛り上げていきたいという意向が一致しているようです。一説には、アメリカかブラジルのクラブチームを2人で買い取って運営するという壮大な噂も出ている」
兄・泰年が監督を務める古巣・ヴェルディにカズが復帰するとの報道も流れているが、三浦一家が団結すれば大きな話題を呼ぶことは間違いないだろう。
いずれにせよ、水面下で怪しい動きを続ける納谷氏が気になるところである。
田崎氏が同著の出版理由をこう語った。
「カズさんの商品価値を考えると、納谷さんという存在はこれまで確かに“負”だったのかもしれません。それでも、サッカーショップや代理人業を持ち込むなど、彼がサッカー界に多大な貢献をしたのも事実なんです。僕は20年近いつきあいとなりますが、サッカーのことが何より好きで、実際に会うと人なつっこくて優しい。そんな納谷さんというおもしろすぎる人間の魅力を伝えたかったんです」
ここまで強烈な個性を放つ実父の息子だからこそ、カズは「キング」と呼ばれるまでになったのだろう。