エンタメ

我が青春の週刊少年ジャンプ(3)江口にとっては極限状態も楽しい思い出

 漫画ファンならば、数奇な運命を感じざるをえないのではないか。

 江口が「月刊少年ジャンプ」で連載をしていたら、「キン肉マン」は誕生しなかったかもしれない。そして、何より我々がより多くの江口作品を享受できたかもしれない。

 江口は「すすめ!!パイレーツ」(77~80年連載)で、弱小球団の千葉パイレーツを舞台にしたギャグ漫画で才能を開花させる。その後、81年から連載が始まった「ストップ!!ひばりくん!」では、世間で認知され始めたばかりのニューハーフを主人公に据えて、読者をアッと驚かせた。

 一方で、遅筆であることを「白いワニ」と自身を作中に登場させて自虐ギャグにしていたのだ。

 江口はこう振り返る。

「パイレーツの連載開始直後から1年半ぐらい、編集部に住んでいたんですよ。当時、編集部の一角に執筆室っていう小さな部屋があって、本来は原稿の遅い作家が来て、仕上げ作業をする部屋だったんだけど、だんだんそこに住み着く人が出てきた。本格的に住み始めたのはコンタロウさんだったらしい。編集部から大学に通って、卒業したという逸話があるくらいですから。僕も最初は千葉の実家で描いていたけど、すぐに集英社までの片道2時間半が惜しくなって、住み着いてしまった。先輩から鍋やら布団やら日常必需品をもらって(笑)。原稿が上がった日だけ、編集部がホテルを取ってくれるから、その日は風呂には入れるんだけど、あとは風呂にも入らずずっと編集部で原稿を描いていました」

 遅筆の最大の理由は作画にあったという。

「ストーリーを練ったり、ギャグを考えたり、ネームを切ることは苦ではなかった。実際に、『ひばりくん』の第1話は喫茶店でサラッと30分ぐらいでネームを作って、編集者にOKをもらいましたからね」

 しかし、江口は連載を続ける中で、絵に対する意識がますます高くなっていった。それは、「ひばりくん」を読んでいた我々も気づいていた。登場人物の耕作くん同様に、男にときめいてしまう背徳感を感じていたはずだ。ギャグ漫画であることを忘れるほど、江口の描くひばりくんのイラストは魅力的で、繊細なタッチで描かれていたのだ。それに加え、江口の原稿へのこだわりも強かった。

「初めてプロの原稿を見た時に、『汚い!』と思っちゃったんですよ。(原稿の描き損じを修正する)ホワイトだらけだったり、下書きの(印刷上は出ない)青い線が入ったままだったりするでしょう。それがイヤで、ホワイトを使わなかった。今考えるとバカだなと思うけど‥‥」

 結果、「ひばりくん」は「週刊少年ジャンプ」誌上では未完のまま唐突に終了した。

「ずっと『隔週でやらせてくれ』とかわがままを言っていました。今だったら、作家の要望として認められるかもしれないけど、当時はそんなの考えられなかったですからね。それで、最後のコマに『少年漫画は死んだッ‥‥』と描いた原稿を渡してそのまま姿をくらませちゃったんです。でも、本当に“逃げた”のはこの1回だけで、しかも1日だけです。都内のホテルに潜伏して、全てが終わったのを確認して出ていった。当時の編集長から呼び出されて『もう週刊では面倒見切れないから、好きにしろ』と‥‥。完全に僕が悪いんです」

 端から見れば、極限状態での連載にしか見えない。だが、江口にとっては全てが楽しい思い出だという。

「大変だったけど、つらくはなかった。やることなすこと全部が新鮮だったから。編集部に住んでいたので、部外秘の読者アンケートを集計中にこっそりのぞいたりしてね。他の連載している作家に対して、口には出さないけど、ライバル心を燃やしながら、どうしたら読者のドギモを抜けるのか、そして順位を上げられるのか、編集者と一緒にそればかり考える日々は、漫画家としては楽しいものでしたね」

 ジャンプのテーマである「努力・友情・勝利」はまさに制作現場でも貫かれていたのである。

カテゴリー: エンタメ   タグ: , , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<中年太り>神経細胞のアンテナが縮むことが原因!?

    加齢に伴い気になるのが「中年太り(加齢性肥満)」。基礎代謝の低下で、体脂肪が蓄積されやすくなるのだ。高血圧や糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病に結びつく可能性も高くなるため注意が必要だ。最近、この中年太りのメカニズムを名古屋大学などの研究グル…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<巻き爪>乾燥による爪の変形で歩行困難になる恐れも

    爪は健康状態を示すバロメーターでもある。爪に横線が入っている、爪の表面の凹凸が目立つようになった─。特に乾燥した冬の時期は爪のトラブルに注意が必要だ。爪の約90%の成分はケラチン。これは細胞骨格を作るタンパク質だ。他には、10%の水分と脂質…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

注目キーワード

人気記事

1
前中日監督・立浪和義が吐き捨てた!YouTubeで裏話暴露の球界OBを「心が満たされてない人」
2
おいおい、またか!? 太川陽介が「バスvs鉄道対決旅8時間SP」の結果を放送前にネタバレ暴露!
3
大型補強などありえない…日産の経営統合に巻き込まれた横浜F・マリノス「存続の危機」
4
「明石家サンタ」で露呈…爆笑問題・太田光の「要求」を実行した明石家さんまの「老いと引退」
5
中山美穂の「死亡事故」は…入浴中の体調急変「8割以上は冬の熱中症」によるものだった