上司の不正を暴き、支店融資課長から本店営業第二部次長に大躍進出世した半沢だが、その陰にはやむなく異動・出向の憂き目を見る敗者がいる。銀行マンが忌み嫌う片道切符の島流し先とは‥‥。
「名古屋の系列に出向が決まったよ‥‥」
あきらめきった顔でつぶやいて席を立つや、ダァー! と雄たけびを上げ椅子を投げつけるわ、テーブルを蹴飛ばすわの大暴れ。
これはドラマ第6話で、120億円の運用損失を出した伊勢島ホテルに200億円の融資を行った半沢の同期行員が屈辱的な処分を明らかにする場面だ。
都市銀行OBで「銀行員のキミョーな世界」(中公新書ラクレ)や「老後のお金は40代から貯めなさい」(小社より近日刊)の著者の津田倫男氏が解説する。
「実際にはドラマのようにいきなり出向を言い渡されることはまずありません。というのも、銀行は取引先など外部に左遷されたことが明らかになることを嫌うからです。ですから、まずは人事部付などでワンクッションを置いてから左遷するのが普通です。もちろん、人事部付はあくまで“待機ポスト”で『出社に及ばず』となります。その先、どこへ異動になったかは発表もされません」
あくまで表ざたにしないのが銀行の流儀なのだという。その赴任地として常に人気争いをしているのが札幌と福岡。反対に「ここに飛ばされたら終わり」という不人気ランキングの2トップなのが名古屋と京都だという。
「どちらも閉鎖的で、よそ者を容易に受け入れない文化があるのが原因ですね」(前出・津田氏)
県民性研究家の矢野新一氏が詳述する。
「名古屋は4回値切りという言葉があるくらい、お金に細かいところがあり、ビジネスマンは商売しづらい。同じく京都も創業100年クラスはザラにあり、10~20年住んだくらいではよそ者扱いされるほど価値基準が違います。ちなみに京都人は利率がいいと信じているせいで信金が強い」
排他的で金にうるさいとなれば銀行マンではなくても苦労しそうだ。
第5話では「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」とばかりに自分の罪を部下になすりつけようとした支店長が、半沢に巨悪を暴かれ泣く泣く「マニラ行き」を命じられてしまう。
「こうした金、女性問題は一発退場の懲戒免職になります。『出向は片道切符』といいますが、特に50代からの出向はほぼ間違いなく、片道切符になります。ですが、マニラは島流しみたいな感じで受け止められていますが、アジア諸国はこれから発展する国、若いうちに赴任するなら栄転だと考えるべきです。出向先でその企業の再建に成功すれば、ものすごい人材だと、人事部が評価を見直すことだってあるはずです」(前出・津田氏)
トヨタ自動車の奥田碩氏もマニラに出向しながら、のちに会長まで上り詰めた。逆境を乗り越えてこそ100倍返しになるのだ。