その通知書にはこう書かれてある。
〈西野建設は六億円相当の建築費用を細谷家に十億で売りつけたことになり、建設段階で四億の利益を稼いだことになる。和民、西野が儲かり、細谷家が大損を食らう。(中略)このような不正義を絶対に許すわけにはいかない〉
さらにもう1通、「老人ホーム契約詐欺事件」と題した抗議文書も、同じく3社に対して送られた。こちらは、さらに強い論調で建設計画の中止を訴え、
〈細谷家に不利な条件を作った横浜銀行、西野建設、和民に対し、契約詐欺事件として刑事告訴する所存である〉
これと前後して昨夏、細谷家、西野建設、ワタミの3者で話し合うことになったというが、
「実際の契約者は私の父ですが、当時87歳と高齢で、『体の具合が悪くて病院に行ったり、入院もしたりしているので出席できない』と言うと、ワタミから『どこの病院に行っているのか。どこが悪いのか。施主なんだから、出てくるのは当たり前だろう』という恫喝のような連絡が父にあったんです」(政幸氏)
そして交渉は最終局面へと突入する。
「建物は昨年8月31日にワタミに引き渡しの予定でしたが、検査が通らなかった。廊下が波打っていたり、壁に傷がついていたり、どうやったって引き渡せないものでした。完成済証も出ないのに。それを指摘するとワタミは『不備があってもいいんです。でないと困る』と。話は平行線をたどり、やがて訴状が送られてきたんです。西野建設は、先にこちらが3億円の建設費を支払っていたので、残金6億4000万円を支払うようにとのことでした。ワタミは、引き渡し遅延による2億円の損害賠償を求めています」(政幸氏)
2億円の損害賠償はともかく、約束の期日どおりに引き渡しを求めるワタミの言い分にも一理あるとすれば、コトの元凶は想定外の金額設定で「欠陥物件」を造った建設会社なのか──。とにもかくにも“被害者”だと認識していた細谷家が逆に訴えられるという事態に発展したのである。
こうした一連の騒動と細谷家の言い分について、ワタミの広報担当者は、
「(契約詐欺との指摘について)そのような事実はありません。裁判の詳細についてはお答えしかねます」
そして、横浜銀行は「個別の案件なのでお答えしかねます」。西野建設からは「社長が外出中」とのことで、締め切りまでにコメントを得ることはできなかった。政幸氏は言う。
「裁判がもし意にそぐわない結果になった場合は、控訴しようと思っています」
はたしてドロ沼の争いはどんな決着を見るのか。