現役時代に原発を推進した小泉純一郎元総理が脱原発を主張する今、福島第一原発では何が起きているのか。折しも4号機では、人類史上初の「命がけのUFOキャッチャー」のような燃料棒取り出し作戦が進められている。震災後、何度となく福島入りし、惨状を取材しているカメラマンの八木澤高明氏が、驚くべき最新「偽装実態」を明かす!
先日の11月6日、福島第一原発4号機の使用済み燃料プールから燃料棒を取り出すにあたり、東電が4号機の現状を報道陣に公開しました。あれだけを見ると原発は安定しているように感じられますが、作業員が今やっていることといえば、(対策本部が置かれている)免震棟周辺の見回りだけですよ。それ以外のところは放射線量が高くて近づけてもいないのが現状です。
安倍総理はこの9月、福島第一原発を視察し、放射能汚染水漏れへの対応状況をみずから確認しました。防護服を着用し、汚染水が漏れた貯蔵タンクや汚染水の拡散を防ぐために第一原発の1、2号機の間の護岸に設置された水中カーテン「シルトフェンス」などを見て回りましたが、安倍さんが案内されたところは比較的線量が低いところばかり。6日に4号機の燃料棒取り出しに先立ち報道陣に公開された4号機プールも実は線量が低い。あんな偽装パフォーマンスにダマされてはダメです。
燃料棒が沈められているプール内は、水素爆発した原子炉建屋の大きなガレキは取り除かれ、透明度の高い水が張られている。そこから使用済み、未使用合わせて1533体の燃料棒を取り出す作業は11月中旬に開始。ちなみに4号機は事故当時、定期検査中で唯一、炉心のメルトダウンを免れ、4基ある原発の中では最も被害が軽微だった。だから放射線量も低い。作業について社会部記者が言う。
「作業は燃料交換器で1本ずつ燃料棒をつり上げ、『キャスク』という鋼鉄製の容器に水中で移し、最終的に敷地内の共用プールに移す。この作業は、通常なら位置や状態があらかじめコンピュータ入力されており、機械に任せておけばいいんですが、4号機の場合、大量のプール内に沈んでいるガレキを目視で取り除きながら、なおかつ破損している可能性もある燃料棒を見極めながら進めなければならない。
まるで『UFOキャッチャー』を失敗せずに1500回以上も繰り返すような、難度の高い作業です。燃料棒が空気に触れれば、放射能で作業員は即死。もし、作業中に大地震が起きたらどうするのか。とはいえ、この作業を終えなければ廃炉の工程は進まない」
東電は4号機の燃料棒取り出しを来年末までに終了させ、2015年9月に3号機、17年度に1、2号機の取り出しを順次始める計画だ。
1カ月ほど前に汚染水をためるタンクで新たな汚染水漏れが見つかった問題で、タンクに傾きがあったことが発覚しましたね。傾いたタンクに満水になるくらい水を入れたため、タンクの天板部から水が漏れていたというものです。
どうしてこのような初歩的なミスをするのか。それは熟練したベテランの作業員がめっきり少なくなったからです。
というのも、ベテランの作業員は皆、年間許される被曝線量が100ミリシーベルトを超え、もう原発敷地内に入れないんです。事故当初から原発作業員は全国から集められていますが、早い話、今集められているのは、原発で作業してくれる人なら誰でもいいという感じで集められた人ばかりで、敷地内にはもう専門的な知識を持った作業員はほとんどいないんですよ。
労働安全衛生法は原発作業員の被曝線量の上限は通常時で年間50ミリシーベルト、緊急時100ミリシーベルトと定めている。今回の事故では当初250ミリシーベルトに引き上げられたが、11年末に元に戻された。
◆文・八木澤高明氏