「天安門特攻」で注目されたウイグル族。当初は中国当局に「組織的テロ」と一方的に断罪されたが、彼らは今、何を考えているのか。実は日本にも数千人規模のウイグル族がさまざまに暮らしている。彼らに新疆ウイグル自治区に住む同胞たちの悲惨な状況や偽装の大国への率直な思いを絶対匿名を条件に語ってもらった。
──天安門の炎上事件が発生して3週間が経過しましたが、事件についてどう見ていますか。
アフメットジャン(以下、アフ) 中国共産党は分離独立を目指すウイグル人の組織「東トルキスタン・イスラム運動」が起こしたテロ事件と断定してますが、実際はまったくわかりません。そう報道しているのは中国の国営メディアだけなのですから。
グリザニ(以下、グリ) そもそも、そんな組織の名前も私たちには伝わってこない。活動の拠点、ふだんの活動も。そもそも組織があるのかどうかも疑わしい。
──事件は、中国政府によるデッチ上げということ?
アフ それはわかりませんが、事件について中国では、中国国営メディア以外取材が許されていない。
グリ 海外のメディアがウイグル自治区の現状について自由に取材することは、事件のはるか以前からできない状況でした。現地ウイグル人に記者が接触しようとしただけで、両者すぐに身柄を拘束されます。
アフ 政府発表が正しいというなら、ふだんから海外のメディアにも自由に取材を許すべきで、そうしないこと自体、中国政府の「公式」見解を疑わせる結果になっています。
グリ 海外からの取材をシャットアウトしていることについて中国政府は「治安上の理由で外国人記者の安全が守りきれないため」と主張していますが、つまるところ、政府の統治はうまくいっていないことになります。
──それほどウイグル自治区の治安は悪いのですか?
アニワル(以下、アニ) 日本の皆さんは「新疆ウイグル自治区」という名前を聞くと、何かウイグル民族による自治が行われているような印象ですが、「自治区」という呼び方自体がまったくのウソです。そもそも中国という国は、支配民族である漢民族でも「自治の権利」なんて認められていないんですから。
トゥール(以下、トゥ) 少なくとも地元民である我々の忍耐は限界に近づきつつあります。それほど中国政府のウイグル人に対する迫害は激しいものになってきました。特に09年の「ウルムチ事件」以降、共産党のやり方は、なりふりかまわないものになっています。
~座談会出席者の経歴~
アフメットジャン=日本の国立大学に8年間留学。現在、カナダ国籍を取得し、カナダの大学で講師を務めている。たまたま所属している学会の関係で日本に滞在中に北京の事件が勃発した。
グリザニ=ウルムチの総合病院で勤務していた女医。日本財団の奨学金で日本の医科大学に留学中に日本人男性と結婚し、現在は日本国籍。
トゥール=中国の大学の法学部を卒業し、弁護士として活動したのち、日本に留学。大学院でも法律を専攻して日本企業に就職。中国ビジネスに関する法務部門で働くかたわら、日本の司法試験合格を目指して勉強中。
アニワル=日本に留学して日本語を習得したのち、トルコの企業の日本支社に就職。日本や中国との貿易事務に就いているが、現在も中国国籍のまま。
(いずれも仮名、年齢非公開、敬称略)