●ゲスト:野村克也(のむら・かつや) 1935年生まれ。京都府出身。プロ野球解説者・評論家。54年、南海ホークスに入団以降、27年間にわたり捕手として活躍。歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王など、その強打で数々の記録を打ち立て、不動の正捕手として南海黄金時代を支えた。また、延べ4球団で監督を歴任。毎週土曜日、スポーツバラエティ番組「S☆1」(TBS系)にてレギュラー出演中。
楽天・田中将大のメジャー挑戦が可能となり、米球界による“争奪戦”が過熱する中、恩師であるノムさんが登場。マー君の「神の子」誕生秘話に加えて海外移籍への思い、さらに大谷の二刀流などの新戦力分析から原巨人まで、野球好きの天才テリーとの会話は尽きることなく‥‥。
テリー お忙しいところをありがとうございます。
野村 何で呼ばれたのかわからないんだよなぁ。
テリー それはもちろん、2013年の野球の総括を。
野村 俺、そういうの苦手だからなぁ。
テリー そんなことないでしょう。本職じゃないですか。
野村 もう、全然興味がないから(笑)。
テリー ハハハハ、そんなこと言わないでくださいよ。まず今年のプロ野球では、とにかくマー君(楽天・田中将大)がすごかったと思うんですけど。
野村 まあ、記録だけを見たらすごいけど、内容は大したことないんだよな。
テリー あ、そうですか。
野村 だけど投げると、味方が点を取るんだ。1試合平均6点以上取ってるんじゃないかな。
テリー 確かに先制点を取られても、ひっくり返していましたよね。マー君が投げているから、打線が奮起するというのもあるんですか。
野村 「マー君、神の子」ですよ。あの子は、何か不思議なものを持ってるね。
テリー そうですよね。
野村 18歳で入ってきて、普通なら二軍でスタートさせて、段階を経て一軍に上げていくんだけど、とにかく楽天は球団ができたばっかりで、よその球団をクビになった選手の寄せ集めで、ピッチャーがいないんですよ。岩隈しかいないんだ。
テリー 当時ねえ。
野村 だから「もういいや」と、一軍からスタートさせたわけ。で、続けて3試合先発で使ったら、3試合ともノックアウトだったかな。ところが、敗戦投手にならんのですよ。そこから「神の子」が生まれちゃった。
テリー 運がいいんだ。
野村 続けてノックアウトでも、ピッチャーがいないから使い続けたんですよ。それで慣れてきたのもあるんでしょうけど。
テリー 楽天だからよかったんですね。
野村 珍しいピッチャーでね。普通、新人投手っていうのはストレートを基準に判断するんですよ。ストレートがいいかどうか。
テリー 速い球を投げられるか。
野村 速いとか、コントロールがいいとか、キレがいいとか。だけど、マー君の時は、僕はいいスライダーを投げるなあということで判断したんですよ。このスライダー、打者は嫌がるだろうなと。それが功を奏して、1年目に活躍して。
テリー 1年目で11勝。翌年は9勝でしたが、あとはずっと2桁勝ってますもんね。今年は24勝0敗ですけど、特によかった点はどこですか。
野村 ピッチャーというのは、困った時にどうしのぐかですから。例えば0-2とか1-3とかっていう四球を出せない、打たれたくないっていう苦しいボールカウントの時に、僕は「原点能力」と言っているんですけど、外角低めでカウントが取れるようになった。これが一番ですよ。万人の打者に通用するわけですから。本人が意識しているかどうかは知りませんけど、「困ったら原点だ」というのを口やかましく言ってきましたから。
テリー キャッチャーの嶋と相性がよかったということもあるんですか。
野村 僕はあんまり嶋は評価しないんですよ。
テリー あ、そうですか。でも、日本シリーズではけっこう巨人をきりきり舞いさせてましたけどね。
野村 いやあ、きりきり舞いというか、嶋というキャッチャーのタイプと、巨人打線の相性がよかったということですよ。
テリー そうか。
野村 嶋もね、2年間けっこう使ったんですけどね。僕がキャッチャーをやっていた時は、(右打者の場合)バッターが見逃すと、右目でボールを受けて、左目でバッターの反応を見るんです。それで次の球を決めることが8割以上あったので、3年目に入った時に「ボールがバッターの目の前を通過した時に、バッターの考えを洞察できるか」って聞いたら、「わかりません」と言う。それは「絶対見破ってやろう」という「お前の執念が足りないんじゃないか」と言ったんだけど。
テリー 捕手の「執念」か、なるほどね。
野村 キャッチャーボックスに座る前に相手打者が「変化球の対応をどうしているか」という分析は、今でもまだ足りていない。ただ、嶋にも「困ったら原点」と教えてきたので、外角一辺倒だったのが巨人にはちょうどよかった。巨人打線は天才型ばかりで、配球を読むとか狙い球をしぼるとか全然考えてこないから。
テリー ハハハハ。