振り込め詐欺──。人の心情を弄ぶ卑劣な犯罪がこう呼ばれるようになってからすでに10年がたった。にもかかわらず、いまだに被害は増え続けるばかりなのだ。「母さん助けて詐欺」などと新名称までが登場したことをあざ笑うかのように、不法グループのメンバーたちが悪質な詐欺現場の実態を明かした。
「東京ではもうかなり難しいけど、地方だったら6~7割の確率で引っ掛かる。今は地方のほうが稼げるんだよ」
関東地域に在住する20代前半の佐藤孝雄氏(仮名)はあっけらかんと打ち明けた。小ざっぱりした、今どきの青年・佐藤氏が語る稼げる仕事とは、ズバリ「振り込め詐欺」だ。
実は警察庁が8月に入り発表した今年上半期(1~6月)の振り込め詐欺など「特殊詐欺」の被害総額は前年同期比26.5%増の268億2950万円。年間被害総額で過去最悪だった2013年を上回るペースで被害が発生しているのである。
最近は振り込め詐欺でも口座からの引き落とし時に検挙されやすいことから、犯行グループが被害者宅まで現金を受け取りに行く「現金手渡し型」のほか、レターパックや宅配便を使って現金をだまし取る「現金送付型」の割合が増えている。まだまだ、振り込め詐欺の犯罪ネットワークは広域に張り巡らされていたのだ。
佐藤氏が振り込め詐欺に加担したのは約1年半前からのこと。一時的にまとまったお金が必要になり、学生時代のヤンチャな友人の紹介で詐欺グループの実行部隊に加わった。
グループ上層部は東京に拠点を置き、佐藤氏らを7人1チームで地方に派遣する。派遣先は栃木、茨城、山梨、静岡という首都圏近郊の各県で、現地に着いたら、上層部が手配しているビジネスホテルにチェックインするという。
ホテルでは電話をかける先の名簿、携帯電話、そして乗用車が最大2台あてがわれる。実行犯7人の内訳は、詐欺の電話をかける通称「掛け子」が3人、被害者宅に現金を受け取りに行く「受け子」が1人、被害者宅周辺の見張り役1人、さらに近隣の所轄署周辺で警察の動きを探る見張り役1人という実行犯、そして上層部から派遣された、掛け子の見張り役兼だまし取った現金の管理役が1人である。
当初の振り込め詐欺は、人海戦術でとにかく電話をかけまくり、数%が被害にあう成功率の低いものが主流だったと言われる。その意味で成功率6~7割というのは異常とも言えるが、その非道な手口の秘訣を佐藤氏が不敵に公開する。
「要は名簿の精度なんだよね。名前と住所、電話番号程度の名簿ならいくらでも手に入るだろうけど、自分たちに配られる名簿は、電話をかける対象の名前、住所、固定電話と一緒に、対象者の東京在住の息子の名前、勤務先名なんかまでが記載してある。これがデカいんだよ。掛け子が息子を名乗って電話をかける時も会話の端々に会社名なんかを入れると、かなりの確率で相手は信じるからね」(佐藤氏)
首都圏近郊で行う詐欺のシナリオは「会社の金を使い込んだ」というものがスタンダードで、その他には「知り合いの女性を妊娠させてしまったから」といったものがあるという。
被害者の息子がすでに実家を離れ東京にいることは確認済みだ。それだけに、一味は犯行を自在に遂行できるのである‥‥。