社会

福島第一原発公開でわかった“汚染水危機”

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「構内に保管している36万トンの汚染水を来年3月末までに処理を完了する」──東京電力・福島第一原発の小野明所長は10月16日、報道陣を前に「自信」たっぷりに語った。

「自信」の背景にあるのは、この日行われた今年3回目の報道公開。事故発生から3年以上経過した今も発生し続ける放射能汚染水への新たな切り札となる高性能型の多核種除去設備(ALPS)とモバイル・ストロンチウム除去設備などを初公開したことにある。

 汚染水内の62種類の核物質を告示濃度限度以下まで取り除けるALPSは、既設のものが試運転中。

 今回公開された高性能型は政府の支援を受けて開発され、処理能力は1日500トンと既存型の2倍で、発生する放射性廃棄物量は9割削減できるとのフレコミだ。

 確かに高性能型ALPSは、私が過去の報道公開で目にした、いくつもの装置を並べて大小数多くの配管でつないだ複雑怪奇な既存型ALPSとは違い、配管などが簡素化され、明らかに「進化」がうかがえる。

 とはいえ、既存型ALPSのほうの運用もトラブルの連続。今春には使用しているフィルターが放射性物質による劣化で亀裂が入り運転を停止。新材質フィルターに交換し、試運転を再開したものの、今度はフィルターに亀裂が発生。試運転は一部停止に追い込まれた。

 当初あった来年3月末までの汚染水処理完了という「公約」は、今回公開された高性能型だけでなく、既存型のALPSもトラブルなく順調に稼働することが大前提。高性能型ALPS導入が大きな前進につながるかは疑問視されている。

 さらなる問題も露呈した。今回、福島第一原発の構内で目にした汚染水が入ったブルーの巨大な1000トンタンクがそれだ。これまで汚染水はグレーの組立式タンクに保管されていたが、昨年夏以降に組立継ぎ目などから汚染水の漏出が発覚。ブルーのタンクはこれに代わる継ぎ目のない溶接型タンクとして順次置き換えを進めていたものだ。

 しかし、タンクエリアにはまだ圧倒的に組立式タンクのほうが多く、置き換えにまだまだ時間がかかることは明らか。組立式タンクの耐用年数は5年で、あと1年余りで全て交換しなければならないだけに、不安要素の一つである。

 また、1~4号機の建屋群についても、今回初めて構内の高台からその様子をうかがうことができた。4号機上部には過去になかった建屋カバーが新設され、内部では使用済み燃料プールからの燃料棒取り出しが行われていた。

 また3号機上部には、水素爆発により発生した瓦礫が大量に積み上がっていたが、かなり除去されていた。3号機の次なるステップは4号機同様、使用済み燃料プールからの燃料棒取り出しとなるが、これも大きな困難が待ち構えている。

 3号機上部は瓦礫を撤去してもなお放射線の線量が高く、従来どおりの人的な労力を駆使した使用済み燃料棒取り出し作業の見通しが立たない。

 そして1、2号機はかつてと変わらないまま。報道陣への公開後に1号機では上部の瓦礫除去に備え、放射性物質を含んだ粉塵が飛散しないよう薬剤を散布し始めたが、一方で東京電力は、1号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出しや溶け落ちた核燃料の取り出しが計画から2~5年遅れることを発表した。

 その福島第一原発構内では、今も全面マスクと防護服を着用した6000人弱の作業員が行き交っていた。

 東京電力は、福島第一原発構内からは1日で2億4000万ベクレルもの放射性物質が外部に放出されていると推計している。事故はまだ終わってはいない。

◆ジャーナリスト 村上和巳

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