沖縄県石垣島の北北西175キロに位置する尖閣諸島は、福岡県の実業家・古賀辰四郎氏が開拓し、1895年に日本政府が領土に編入。辰四郎氏は翌年から政府に30年間の無償貸与を受け、魚釣島にカツオ節工場などが建設された。最盛期には248人が生活したと言われており、辰四郎氏の没後は、息子の善次氏に引き継がれている。
1932年、日本政府が大正島を除く4島を善次氏に有償で払い下げたが、その後、太平洋戦争を挟んで無人化。72年、善次氏は家族同然のつきあいがあった栗原家に売却している。
さて、「機が熟した」という石原氏との交渉は、いかにして決着を見ることになったのか。石原氏はワシントンでの講演後、報道陣に、
「国が(購入を)さっさとやればよかった。(島の)持ち主は国が信用できないから石原さん、ってことだ」
と話しているが、弘行氏はこう言う。
「かつて石原さんが国会議員の頃、議員団が(尖閣諸島を)買うというアイデアは持ち上がりました。結局、国を信用するとかしないではなく、石原さんが終始一貫して(尖閣問題を)取り上げてきて、考え方がブレていないということがいちばん重要なんですよね。もし民間に売却した場合、やがてブローカーなどを通じて外国人の手に渡ってしまうかもしれない。そこで経済的実効支配の歴史がとぎれるリスクがあるわけですよ。兄は70歳、石原さんも間もなく80歳ですから、3年後、5年後に体力、知力、精神力がどれだけ残っているか。石原さんは『年齢的にも今が一つのヤマ場。都知事としての集大成をやっておかなければいけない』と言っていました。兄としても後世に任せるより、生きている間に島の存続という二文字を残しておく責務を感じている」
前出・山本氏も言う。
「石原氏は17年前に尖閣諸島を海上視察しています。それ以降も沖ノ鳥島に上陸するなど、領土問題には断固たる姿勢を貫いている。そこが信用できると栗原家は判断したのでしょう」
ちなみに、国も数年前に非公式な接触を試みてきたというが、
「世間話の中で出たというか、正式オファーではないですよ。兄もまともに受け取ってはいなかった」
國起氏と石原氏との交渉の席では、次のような議論が交わされたという。
「尖閣諸島は離島の国境。そこには領海の問題があり、水産資源の問題が重要だと思ったわけです。沖縄県の漁業に従事している人たちが行きたくても、あそこは無線も届かない。海流が速く海が荒れますから、命を落とす危険性もある。そこに豊かな漁場を水産資源として活用していくためには、例えば避難港や冷凍冷蔵庫などを構築する必要があります。東シナ海での漁獲量が一定の数字になれば沖縄県民が潤い、食料の自給率も上がるはずなんです。そういう考えの共通項について、話し合っていました」
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