もし福島第一原発のような大事故が古里原発で起きれば、放出された放射性物質は日本へ・・・・!?
この住民の指摘は本当なのか。そもそも、大事故は本当に起きるのか。前出・朴准教授によれば、
「韓国は日本よりはるかに地震の頻度が低い。しかし地震があろうがなかろうが、スリーマイル島の事故は起きました。スタッフがポンプの故障を見逃したためです。古里でも、例えば古くなったパイプが破れてちぎれる、あるいは電気が止まるなど、地震が起きなくても大トラブルがあって、事故に発展していく可能性は十分にあります」
では、爆発などによって古里原発から大量に漏れ出た放射性物質は、どのような経路をたどるのか。気象庁の研究機関、気象研究所に尋ねると、一気に不安に駆られる答えが返ってきた。
「福島の事故直後、何らかの放射性物質は大気に放出された分、海に出された分がありますが、数日後にはアメリカ大陸で検出されています。10日ほどたってからは、ヨーロッパでも検出されました」
こう前置きしたうえで、次のような説明があった。
「日本と韓国は北半球の中緯度にあります。ここでは主に西風が吹いていますので、西から東に流される傾向があります。韓国でそれ相当の(放射性物質の)放出があれば、いちばん被害が大きいのは韓国ですが、その次に来るのは日本でしょう」
では、古里原発でチェルノブイリ級の巨大事故が発生した場合、日本はどうなるのか、具体的にシミュレーションしていこう。
京都大学原子炉実験所の故・瀬尾健氏の原発事故評価プログラム(通称SEOコード)を用い、前出の朴准教授が算出し作成したものである。
「今回の分析結果は、(釜山から)風が27・5°の扇形方向へ秒速2メートルで吹き続ける状況を前提としています。計算上、被害を受けるのは風下の扇形に含まれる地域のみで、それ以外はセーフという考えです」
だが、待て。そんなまっすぐな風は非現実的だとの指摘もあろう。
「例えば(大飯原発のある)福井県おおい町で風船を飛ばす実験をしたところ、三重県、愛知県までまっすぐに風が吹いて飛んでいったことがわかりました。百何十キロの距離でもまっすぐに飛ぶことはあるんです」(前出・朴准教授)
デタラメな反論をする韓国
さらに詳しく朴准教授に解説してもらおう。
「例えば150°の見方は、古里原発を基点として、そこから時計回りに150°南東の方向に吹く風を想定しています。その下の数値は150°の風向きを中心に27°の範囲で放射性物質到達後の50年間でのガン死者数を計算したものです」
この北西の風に乗って放射性物質が降り注ぐのは、釜山から最も近い九州地方。8・4万人とその8倍の67・2万人という2種類の数値があるのは計算に用いる係数の違いによるものだ。どれくらいガンになるかの議論がさまざまにあるため、こうした差が生じるのだという。いずれにせよ、最大で67万人ものガン死がありうるというのは衝撃的である。
さらに135°方向への風が吹けば、九州と四国の一部が被害を受け、最大で35.2万人がガン死する計算となる。
最も被害が甚大なのは、大都市上空を軒並み通過する90°方向の西風。大阪、京都、名古屋、横浜、東京をカバーするため、被害人数は104万人にも達するという。まさに日本を横断する放射能被害である。
こんな数値が弾き出されれば、釜山の住民ならずとも日本でも廃炉運動を起こしたほうがいいくらいだ。
実は朴准教授は、韓国の環境運動団体などからの依頼で、今年5月に渡韓。中国側の沿岸部にある霊ヨン光グァン、そして古里の2つの原発で事故が起きたと仮定して、SEOコードによる人命および経済的被害分析の結果を、現地の市民団体や議員らと発表している。古里原発の福島級大事故による釜山市街でのガン死は7万3400人、チェルノブイリ級巨大事故では84万9000人の予測だった。
「この発表に対し、韓水原や韓国原子力安全委員会は『韓国の原発は日本やチェルノブイリとは構造、型が違うから事故は起こらない』と反論してきました。しかし、これは間違いで、韓国と同じ加圧水型軽水炉での事故シナリオです。私たちのレポートをまともに読んでいないことは明らかです」(前出・朴准教授)
いいかげんな安全神話を喧伝する国に、日本人の人命が左右される現実─。
そんな状況下の10月2日には新古里、霊光の各原発が相次いで故障停止した。