口臭マナーとして、ニンニク料理を避ける人は少なくないでしょう。特に営業職や接客業の場合、ランチで餃子などを躊躇した経験は誰しもあるでしょう。
食べ物が原因の口臭は一時的なものですが、ここで質問です。日常的に口臭がする場合、その原因として「病気のシグナル」の可能性も考慮すべきでしょうか。
口臭にはさまざまな種類があります。「口の中」に原因があるケースとしては、歯茎に歯垢がたまり炎症を起こした個所からニオイが発生することがあります。悪化すれば、歯槽膿漏や歯周病となります。その原因となる細菌が、硫化水素やメチルメルカプタンのガスを発生することにより口臭が出るというわけです。
それだけではありません。歯周病菌が歯茎の隙間から体の中に入り込み、心臓の血管の壁に付着し、結果的に動脈硬化を引き起こすことがわかってきました。同じく脳の血管が詰まって脳梗塞となることもあり、歯周病の人は通常の3倍も脳梗塞になるリスクがあるとも言われています。
重大病にもつながりかねない歯周病ですが予防策としては、ブラッシングやマウスウオッシュを使うこと、食事の際によくかむことです。あまりかまずに食べると食べ物のカスが歯の周りに残るからです。食べ物のカスが気になる方はガムをかむのも一つの対策です。
もう一つの口臭要因は内臓から発生するガスによるものです。卵の腐ったようなニオイがする場合、胃などの消化器系に疾患があることがあります。消化不良により、食べたものが胃の中で発酵します。そこで発生したニオイ物質は腸管から吸収され、血流に乗って肺から排泄されることで口臭の原因となるのです。また、腸の働きが低下し、腸内の悪玉菌が増加してニオイ物質を発生させることもあります。
がんと口臭の関係も無視できません。肺がんや喉頭がんの患者さんからは肉が腐ったようなニオイがします。この症状は肺や鼻、喉など炎症を起こしている部分の皮膚組織が化膿し、菌が増殖したことが原因です。
肝硬変や肝臓がん、腎不全の患者さんからはアンモニア臭がします。まず、食事からとったタンパク質が分解されるとアンモニアが体内で発生します。肝機能が低下していると、アンモニアを尿素に分解する代謝回路の働きが鈍り、血液中のアンモニア量が増えます。その結果、口臭がアンモニア臭となるのです。
こうした口臭は“病的口臭”と呼ばれ、重篤な病気のリスクが高まるので内科で要因を確かめてください。
さらに、舌苔(ぜったい)が口臭の原因の場合もあります。これは舌が白く苔状となり、舌の新陳代謝で剥がれた細胞や細菌が繁殖して固まる症状で、ドライマウス(口腔乾燥)になるとできやすくなります。下水のような口臭を発する舌苔の原因は口呼吸やいびき、薬の副作用による唾液減少、更年期障害、喫煙、糖尿病や人工透析などです。舌苔は重病のシグナルではないものの、不調を示すサインであることには変わりありません。なるべく早めに医師に診てもらってください。
中には、舌苔で舌が白くなるとブラシなどで磨く人がいますが、舌が乾いている状態で磨くと舌を傷つけて細菌を繁殖させやすくなりますので逆効果です。
ちなみに、便秘も口臭が発生します。腸内ガスが血管を通じて運ばれ、肺から放出されて口臭となるのです。便秘を解消させるべく食物繊維や乳酸菌を含む食品を摂取してください。
気を遣って他人からも指摘されにくいのが口臭です。家族から言われた場合、前日の飲食が原因でなければ病気を疑ってください。「口臭は大病の源」でもあるのです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。