連日の猛暑から外出を控え、冷房の効いた部屋で一日中スマホに興じる。そんな人も少なくないだろう。ところがここ数年、スマホのやりすぎで「認知症もどき」の症状を訴える人が急増しているのだ。
「その『もの忘れ』はスマホ認知症だった」(青春出版社)の著者で、「おくむらメモリークリニック」院長の奥村歩医師が解説する。
「私が開設している『もの忘れ外来』の患者さんは、かつては大半が認知症の不安を抱えた高齢者の方たちでした。ところが、5年ほど前から30代~50代の働き盛り世代が目立つようになり、現在は約5割が65歳までの世代。皆さん、自分はアルツハイマー型認知症ではないか、と心配して来院される患者さんです」
だが、MRIで脳の状態を検査しても、アルツハイマー型認知症の特徴である、記憶をつかさどる脳の海馬部分の萎縮は見られない。奥村医師が続ける。
「そこで患者さんに聞き取りをすると、皆さん、それこそ食事中だけでなく、トイレやベッドの中でも肌身離さずスマホを持っているヘビーユーザーだという共通点が見られたんです」
奥村医師はこれを「スマホにより脳が過労している状態」とし、「スマホ認知症」と名付けた。
過度にスマホを使用すると脳過労になる。その大きな要因が、脳の中にある前頭前野への影響だ。
「脳に入ってくる情報は前頭前野で処理されますが、その際に、【1】浅く考える機能(ワーキングメモリー)、【2】深く考える機能(熟考機能)、【3】デフォルトモードネットワーク(ぼんやり考える機能)に分かれる。通常、私たちが考えたり判断したりする際、ワーキングメモリーと熟考機能がバランスよく使われますが、スマホに依存した生活を送っていると、情報量の多さから脳が疲労し、処理能力が低下。結果、それがもの忘れやミスを起こす原因となっているんです」(奥村医師)
つまり、アウトプットがキチンとできていない状態で過剰なインプットを繰り返すことにより、
「極端な話、脳にゴミをためているような状態になっている」(奥村医師)
というのだ。
「そこが知りたい『脳の病気』」(新潮社)などの著書を持つ、東京脳神経センターの天野惠市医師も言う。
「スマホから入ってくる情報は正しいものもあれば、間違ったものも多い。脳はそれをいちいち選別、識別し、判定しなければなりません。しかも識別のためには、さらに多くのネット情報をインプットすることになり、脳には必要以上の負荷がかかる。そのため、脳の容量、処理能力が低下し、最終的にはコンピューターが停止。正しい記憶を取り出せなくなり、理解力、判断力が低下する。つまりスマホ認知症は、脳がオーバーフローした状態になる、オーバーフロー認知症と言いかえることもできます」