──何だか安倍政権で明るい未来がかいま見えてきますが。
バラ色でしょう、と言いたいところですが、残念ながらそうは問屋が卸さないんですね。円安と株価高騰の点では、一見うまくいっているかのように見えます。そして安倍自民が大勝したため、日銀もこれは国民の声だと受け止めざるをえない。今後は物価目標を2%にするでしょう。ただ、政権の言いなりになれば、日銀の中央銀行としての独立性はどうなんだという問題が出てきます。国際的な信用を失う可能性はあります。
──しかし、誰もが久しく好景気になることを待ち望んでいます。
確かにそうですが、本当に需要が伸びて、モノが売れて景気がよくなり、それによって物価が上がるならいいのです。でも、今のようにモノが新たに売れだしたわけでもない、給料が上がったわけでもない。その中で物価だけが上がっていくのが「悪いインフレ」なんです。2%物価が上がるということはどういうことかというと、ちょうど4年前のリーマン・ショックの直前の状況と同じなのですが、あの時のことを覚えていますか?
──確か物価が上昇して消費者が悲鳴を上げていた。
そのとおりです。小麦の価格が値上がりしたため、パンやパスタなどの価格が上がりました。当時は投機的な流れの中で株価が上がってはいたが、給料は上がらなかったので生活が苦しくなる一方でした。さぁ、どうしようと思ったところでリーマン・ショックが起こり、モノの値段がドーンと下がったわけです。今のままでは、またリーマン・ショックが起こる前の状況に戻るという可能性が非常に高いのです。
──バラ色どころか灰色では‥‥。
さらには円安が追い打ちをかけます。自動車など輸出業はよくても、日本は輸入産業のほうが比率が多いんです。例えば、年内に石油の取り引きをしたものが実際に日本に入ってくるのは2月の初めになります。ということは、2月中旬以降はいろんな石油製品の値段がじわじわと値上がりすることになるでしょう。
それに電力料金も上がります。今、原子力発電所が止まっているから、石油や天然ガスを買ってコストが上がったと、電力会社は値上げ申請をしました。これは年明けにも認められることになりますが、円安になればその値上げでは足りなくなる。今後、電力料金はもっと上がります。
──他にも値段が上がるものはありますか?
ええ、残念ながら。例えば、今、世界的に食料品の値段が上がっています。しかし、日本では値上がりしていないのは円高だったおかげなんですよ。ですから、これから食料品の値段がどんどん上がります。お父さんたちが昼食に食べている牛丼だってこれまで値下げ競争していただけに大変ですよ。すぐに値上げはできないでしょうが、円安のために牛肉を安く輸入できなくなればいくらコストを切り詰めても徐々に値上げせざるをえない。マクドナルドなどハンバーガーだって同じです。これからいろんなものの値段が上がり始めます。