それだけではない。11年の東日本大震災で明らかになったように、海に囲まれた日本列島では、津波被害の危険性を常に考えておかねばならない。では日本海側の津波に顕著な特徴はあるのか。琉球大学名誉教授の木村政昭氏が語る。
「広範囲にわたる大津波を起こす太平洋側の地震と比べ、日本海側で起きた地震では広範囲に及ぶ大規模な津波が発生した例は、ほとんどありません。巨大なプレートが沈み込むことで大規模な津波が発生する太平洋側と比べ、日本海側は、震源地付近の局地的な津波になる可能性が高いんです」
だが、局地的とはいえ、津波が甚大な被害をもたらすことは過去の日本海側地震でも明らかだ。実際、14年に政府の有識者検討会が初めて公表した、日本海を震源とする大規模地震についての調査報告書では、最大マグニチュードを7.9と試算。そのうえで、16道府県の沿岸を襲うおそれのある津波の高さは崖地で最大23.4メートル(北海道せたな町)に達するという調査結果を発表している。この調査結果によれば、今回の地震があった山形県では鶴岡市が最大で13.6メートル、新潟県では粟島浦村で12.6メートルの最大津波が想定されるという。他にも、青森県深浦町では17.4メートル、石川県珠洲市でも15.8メートルの高さにまでなるというから、実にビルの5階ぐらいまでの大津波に襲われる可能性があるのだ。
局地的とはいえ、侮ることができない理由は、まだある。
「太平洋側の場合、津波発生が沿岸から離れた場所で起きるので、津波の規模は大きくとも、それなりに避難する時間がありますが、今回の地震のように近海で発生し、震源が近い場合には、津波の高さが低くても、避難する間もなく到達してしまいます。奥尻島に甚大な被害をもたらしたのは、そうしたことが要因の一つでしょう」(飯高氏)
だが日本海側の巨大地震の予測は歴史的にみて、周期的に発生する南海トラフ地震に代表される、プレート境界の地震に比べ、難しい要因があるという。飯高氏が続ける。
「南海トラフ地震は、多くの研究者が『数十年後には起こる』と考えています。それは、数十年から数百年という単位で繰り返し発生するプレート境界地震の性質上、『次はここで起こる』という予測ができるから。一方、日本海側には無数の活断層があり、それによる地震は数百年から数千年のサイクルで発生すると言われています。そのために予測は難しいのです。一つ一つの活断層の再来周期が千年に一度だとしても、もし、活断層が千個もあれば毎年のように起こることになってしまいますし‥‥」
予測困難な日本海側の大津波。恐怖はすぐそこに迫っている、と用心を怠ってはいけない。