■イスラム教
イスラム教における天国については、コーランの第四十七章第十五節で「畏れ身を守る者たちに約束された楽園の喩えは、そこに腐ることのない水の川、味の変わることのない乳の川、飲む者に快い酒の川がある。また、彼らにはそこにあらゆる果実と彼らの主から御赦しがある」と述べられている。
イスラム教で酒が禁じられていることは広く知られているが、天国には「飲む者に快い酒の川」があるのだ。
地獄についてはコーラン第九章第六十三節に「アッラーとその使徒に歯向かう者、彼には火獄(かごく)の火(ジャハンナム)があり、そこに永遠に住まう」とあり、不信仰者、信仰を拒む者は地獄に落とされることになっている。
■神道
神道の死生観は曖昧で、死後に赴く場所についても明確になっているとは言えない。ただ、「古事記」や「日本書紀」といった「記紀神話」に基づいて考えるならば、死者は「黄泉の国」、あるいは「根の国」に赴くとされている。
黄泉の国は地下に想定されており、地上の世界と行き来できることが前提になっていた。それだけ、死者の世界は自分たちの身近なところにあると考えられていた。
この点が、はるか遠くの場所に極楽浄土を想定した仏教との根本的な違いであり、神道における他界観がそれほど発展しなかった理由でもある。
ここまで、主な宗教の死生観を見てきたが、一方で島田氏は、世界的に進む「宗教離れ」の傾向にも着目すべきだと指摘する。実際、文化庁の「宗教年鑑」によると、平成の30年間で、日本国内における仏教系の信者数は約4000万人減っている。
「日本で仏教の信者が減った要因としては、人々が長生きするようになってしまったことが大きいと思います。現世で十分に長生きすれば、来世に期待する気持ちはあまり起こらない。かつてのように念仏を唱えることによって来世に往生しようと考える人は、昔に比べると少ないと思います」(島田氏)
神社巡りやパワースポット巡りのブームも、参ることによって“手っ取り早く”現世利益を求める人が増えた結果なのではないかという。島田氏はこう締めくくる。
「今、紛争中のロシアやウクライナ、あるいは薬物の過剰摂取による死亡者が多い米国中西部の州などは平均寿命が日本や西欧に比べて短い。そういう所ではキリスト教の信仰も比較的強いので、伝統的な死生観を持つ人も多いでしょう」
そう考えると、現世利益を求めながら“気軽に”死後の世界にも関心を抱く日本人は、まだまだ幸せなのかもしれない。