今年の春先からソウルをはじめ、韓国国内で異常発生を続けている「交尾虫」問題。この虫はヒイロトゲナシケバエと呼ばれるケバエの一種だが、オスとメスが交尾するような形で飛び回ることから、海外では「ラブバグ(愛の虫)」「ハネムーン・フライ(新婚のハエ)」とも呼ばれている。
増え続けるこの「交尾虫」に対し、各自治体の行政局には駆除依頼が殺到。夏を前に行政職員が連日、対応に大わらわだという。生物ジャーナリストが解説する。
「この虫は近年、中国や台湾、日本でも沖縄の石垣島や西表島などで確認されているものの、健康被害に関しての報告はないようです。ところがこの交尾虫どころではない、とんでもない虫がいるんです」
その虫がある菌に感染すると、交尾を繰り返しながら病菌を相手に感染させ、ゾンビ化するというのだ。生物ジャーナリストが続ける。
「それがセミです。幻覚作用のあるマジックマッシュルームと同様の成分を持つとされる病菌『マッソスポラ』がセミの体内に侵入すると、まず生殖器と尾部、腹部が食い落とされ、その部分が菌の胞子と入れ替えわる。ところが菌によって幻覚作用を起こしているセミは、体の3分の1が菌の胞子に入れ替わってもなお交尾や飛行を繰り返し、そのまま動き続ける」
その結果、ゾンビ化しながら胞子をまき散らしてしまうのだ。つまりマッソスポラはセミの心と体を乗っ取り、ゾンビゼミ化させて完全にコントロールする。セミにとっては恐ろしすぎる病原菌ということになろう。
「セミを素揚げにしたものを食する地域などでは人的被害を防ぐため、専門家による注意喚起が行われているようです」(前出・生物ジャーナリスト)
昨年8月、米ウェストバージニア大学の研究チームが、「ゾンビ」と化して感染を拡大させ、「仲間」を増やしていくセミの集団が見つかったとして、学会誌に発表。全米で大きな話題になったが、
「これは昨年6月にウェストバージニア州で見つかったもので、集団が発見されたのは、これで3度目。近年ではたんぱく質の宝庫として、セミは人気が高い昆虫食のひとつですが、実は日本でも過去に2例、ゾンビゼミの発見報告があるんです。セミに限らず、昆虫には細菌を持っているものが少なくない。やはり昆虫食を実践する場合は、十分な知識と注意が必要だということです」(昆虫学会関係者)
君子危うきに近寄らず、である。
(ジョン・ドゥ)