愛知発のB級グルメとして話題になっているのが、「台湾まぜそば」だ。ニンニクと唐辛子で味付けしたピリ辛のミンチとニラ、ネギ、卵黄などを麺の上に載せた汁なし麺で、現在、都内でも30軒以上の店で食べられるほどの人気なのだ。
ブームの火付け役となったのは、今年7月、名古屋市に本店を構える台湾まぜそばの元祖である「麺屋はなび」(電話:052・354・1119)が、東京進出を果たしたのがキッカケだった。名古屋には「台湾ラーメン」というご当地麺があり、それをアレンジして完成したのが、台湾まぜそばと呼ばれている。
そもそも、名古屋名物なのに“台湾”という名称もおかしな話だが、台湾ラーメンは千種区今池にある台湾料理店「味仙」の店主が1970年代に賄い料理として作った、ピリ辛のミンチやニラなどが載るラーメンとして考案された。
当初は常連客のみに提供していたが、80年代半ばの激辛ブームで大ブレイク。台湾人の店主が考案したため、その名が付けられたのだという。今では名古屋市内にある中華料理店の7割近くが台湾ラーメンをメニューに採用し、地元民には欠かせないご当地メニューとなっている。
そして台湾まぜそばである。発祥は6年前に「麺屋はなび」の社長、新山直人氏が台湾ラーメンをベースとした新メニューを試作していた時のこと。
「麺の上に載せるミンチの仕込みに失敗して捨てようとした時、アルバイトのスタッフからアイデアをもらったんです。それがミンチなどの具材を麺の上に載せる“汁なし”という発想でした」
約3カ月間にわたって試行錯誤を繰り返し、ついに「台湾まぜそば」(780円)を完成させた。従来の台湾ラーメンとは違ったピリ辛で濃厚な味わいと、卵黄を潰して、麺全体になじむまでよくかき混ぜて食べるという食べ方は、「絶対にウケる」と確信したという。
また、自家製の昆布酢をかけたり、麺を食べ終えた丼に残るミンチやタレの上に無料で御飯を入れてくれる“追い飯”のサービスも提案した。
名古屋名物の「ひつまぶし」を思わせる味の変化に、注文した客が新たな客を連れて来たという。いわば、B級グルメ天国・名古屋ならではのアイデア料理が、名古屋はおろか全国に飛び火しそうな勢いなのだ。
市内の人気店はこぞって台湾まぜそばを研究し、メニュー化させた。新しくオープンする店も台湾まぜそばを置いたりと、すでに“定番メニュー”にまでなりつつあるのだ。
「台湾まぜそばが広がっていくのはすごくうれしい。台湾まぜそばが食べられる店が増えれば増えるほど、元祖であるウチの存在が引き立ちますから」(前出・新山氏)
現在、名古屋市内では約60軒のラーメン店で台湾まぜそばを出しているが、「麺屋はなび」の味をまねているだけでオリジナリティが感じられないという声は多い。結局は元祖の味に立ち返ってしまうのだ。
地元のフードライターは語る。
「今のところ『麺屋はなび』の一人勝ちです。レシピをまねるのではなく、タレや具材、麺など全てゼロベースで開発すれば、“新名古屋めし”として定着すると思います」
元祖に追いつき、追い越す店は現れるのだろうか。