退職金を運用するなら参考数字は「360」!金融マンには相談するな
サラリーマンにとって、退職金がまとまった金額の収入として最大のものである場合が少なくない。退職金は税金面で有利だ。報酬の一部を退職金の形で受け取ること自体は合理的だ。
だが、実質的なお金の「運用デビュー」が退職金の運用から、という方が少なくない。実は、筆者が一番心配しているのが、こうした方が不適切な運用に誘導されてしまうことだ。
重要なのは、退職金が振り込まれた銀行でこれを運用しないことだ。退職金が振り込まれるのは、給与振り込みやカードの決済などに使っている銀行口座だろう。本連載の第1回目に書いた通り、銀行は顧客の懐具合を知りすぎている。銀行が、老後の生活設計の方法について無料でアドバイスしてくれたりするかもしれないが(タダほど高い物はない!)、すべて無視しよう。
アドバイスを聞くと、「どうしますか」と問われる。答えなければいけないような気になる。運用商品を買わないといけない気になる。しかし、銀行の店頭にリスクを取った運用に適切な商品は「1つも無い」のだ。
退職金が入った時点で、改めて自分の財産を確認すべし。この時に参考になる数字が「360」だ。
65歳で退職し、95歳まで生きると考えて、360カ月ある。持っているお金の360分の1を取り崩して使っても、95歳まで生活費が賄える計算だ。例えば、3600万円持っている人は、毎月の年金額に加えて、10万円使える。
仮にこの人が、今、お金の運用で1割、つまり360万円損したとしよう。将来使えるお金は年金額プラス9万円に減る。使えるお金が1万円減るのは残念だが、「何とかなる」場合が多かろう。運用のリスクを生活に結びつけてイメージするには、老後の毎月の生活資金に換算してみるといい。
老後の生活資金の減少で許容出来るのは毎月1万円までだという人は、毎月1万円に相当する360万円が許容出来る損の限度だ。
リスクを取っていい金額はこの3倍までだ。内外の株式で以下のように運用すると、最悪の場合1年間の損がリスク投資額の概ね3分の1なので、そこからの逆算だ。先の場合、1080万円が限度だ。
この範囲で、内外の株式に投資する以下の商品に資金を半々に投資しよう。国内株式は「TOPIX連動型上場投資信託」(コード番号1306)、外国株式は「SMTグローバル株式インデックス・オープン」だ。共に株価指数に連動するインデックス・ファンドで、運用の手数料が安い。
残りのお金で10年分の支出を超える分は、個人向け国債の変動金利で10年満期のタイプで運用するのが分かり易くて無難だ。
退職金運用を金融マンに相談するのは、赤ずきんちゃんがオオカミに道を聞くくらい愚かなことだ。
◆プロフィール 山崎元(やまざき・はじめ) 経済評論家。58年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て、現在は楽天証券経済研究所客員研究員。獨協大学経済学部特任教授。「全面改訂 超簡単 お金の運用術」(朝日新書)など著書多数。