致死率100%の殺人ウイルスに感染してるかもしれない狂犬に襲われる…。現実にそんなことが起きてしまった。
群馬県伊勢崎市の公園近くを歩いていた小学生9人を含む12人が、近くの民家から脱走した四国犬に次々と噛みつかれた2月7日の事件。呆れたことに、飼い主は法律で義務づけられている狂犬病の予防接種を受けさせていなかったことが判明した。警察は過失傷害や狂犬病予防法違反などの容疑で、飼い主から事情を聞いているという。
大谷翔平の愛犬「デコピン」が注目されるなど、ペットブームは拡大の一途で、日本国内のペット関連市場は2023年で5800億円(推測値)にものぼっている。
だが犬を飼うには、1950年に制定された「狂犬病予防法」で市町村への飼い主登録と、年1回の狂犬病の予防注射が義務付けられている。今回、12人を襲った犬は未登録で、飼育開始後の狂犬病ワクチン接種歴もなかった。この飼い主は自宅で四国犬を7頭も多頭飼いしているにもかかわらず、10年前から狂犬病ワクチンを接種させていなかったという。
狂犬病は世界で年間5万人以上が命を落とす、人獣共通感染症。犬だけでなくほとんどの哺乳類に感染し、発症したら最後、ほぼ100%死亡する。2006年と2020年にそれぞれ、フィリピンで犬に噛まれた日本人男性2人と外国籍男性1人が狂犬病を発症し、亡くなっている。
キャリアである哺乳動物の唾液に狂犬病のウイルスが含まれており、コウモリやサルに噛まれたり、唾液がついた爪で引っ掻かれても感染する。人も動物も歩けなくなり、水を怖がる、精神錯乱するという特有の症状があるが、水を怖がるため水分や食事を摂ることができず、錯乱状態のまま死亡する。
小学生たちを襲った犬は地元の動物愛護センターで保護されており、狂犬病の潜伏期間中は血液検査や「狂犬病を発症しないか」の健康観察が続けられる。日本国内では犬や野生動物による狂犬病感染例がないため、まず心配はないと思われるが、気の毒なのは噛まれた被害者たちだ。
今後、定期的に検診を受けて、必要があれば狂犬病ワクチンを打たねばならない。ワクチンの副作用で高熱が出ることもあるし、アナフィラキシーショックを起こしたことのある人、あるいは食物アレルギーを持っている人はワクチンを打てない。無責任な飼い主でなく、噛まれた子供達と親の方が死に怯えながら暮らさねばならないとは、不条理すぎるだろう。
日本国内の狂犬病ワクチン接種率は低下している。沖縄では接種率が、登録されている犬だけでも49%と半数に満たず、未登録の犬を入れれば狂犬病ワクチンを打っていない犬は沖縄県内に相当数いると懸念されている。
海外はもちろん、国内でも沖縄を旅行中に野犬や動物に噛まれたら、すぐに病院に相談してほしい。なにより犬を守る狂犬病ワクチンを接種していない飼い主は、愛犬家などとは呼べない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)