中心部に配置された15の巨石と、その外側に立てられた、門を思わせる巨石。これがいったいどこから運ばれてきたのかが、長年謎とされてきた。イングランド南部ウィルトシャーにある、ストーンヘンジである。
近年の研究で、この巨石がウィルトシャーから北に約25キロ離れたマールバラ付近のものであると特定されたが、その運搬方法はいまだ定まっていない。なにしろストーンヘンジ周辺には川がないため、切り出した石の下に丸太を敷いて川まで運び、船などに乗せて運んだという説には、いまひとつ説得力がない。それが今も謎に包まれている理由なのだ。
そのストーンヘンジがアメリカ五大湖のひとつである、ミシガン湖の湖底で発見され、考古学者らの間で大きな話題になったことがある。2009年のことだった。考古学研究者が語る。
「発見したのは、ノースウェスタンミシガン大学の水中考古学研究チーム。彼らが湖に沈んだ難破船調査のためソナーを使用していたところ、水深12メートル付近で円を描くように配置された環状列石、つまりストーンサークルを発見したのです。その形状が、イングランドのストーンヘンジそっくりだった」
このストーンヘンジには不思議な絵が描かれており、なんとそれが4000万年前から1万年前に生息していたとされる「マストドン」という生物の姿に酷似しているのだ。
「マストドンらしき絵が描かれた俵型の丸石は長さ1.5メートル、高さ1.2メートル。マストドンは象やマンモスに近い哺乳類で、別名『シノニム』と呼ばれ、怪物レヴィアタンがその由来です。ヨーロッパ大陸やアジア大陸、アフリカ大陸など幅広い場所で、中新世(2400万年前から510万年前)から更新世(258万年前から1万7000年前)にかけて生息していた。仮に1万年前まで生き残っていたとすれば、そのペトログリフ(岩絵)は人類が彫った可能性が高い。古代期、まだミシガン湖の一部は水に浸かっていなかった場所もあるとされることから、発見されたストーンヘンジとマストドンの絵は、この時期に形成された可能性があります」
むろん誰がどんな目的でストーンヘンジを作り、そこにマストドンを描いたのかはわからないながら、世界では5番目の面積の淡水湖の湖底に、1万年前の遺跡が静かに眠っていたとは…。水中考古学者らの間からは「まだ何か眠っているはずだ」という期待の声が上がったのも当然かもしれない。
「ミシガン」とはオジブウェー語(アメリカ先住民の言語)で「偉大な水」を意味する。偉大な水をたたえたこの湖に眠る、ストーンヘンジの謎が解き明かされるのはいつなのか。
(ジョン・ドゥ)