小泉政権期に竹中平蔵氏の号令のもと「構造改革」がスローガン化した。しかし、その結果を正確に説明できる人はほとんどいないだろう。竹中氏が今でも大手を振って永田町を歩いていることがその証拠である。
例をあげればキリがないのだが、橋本政権期の緊縮財政、小泉政権期の構造改革により、我が国は97年以前とは「異なる国」に変貌を遂げてしまったのだ。そのプロセスを説明しよう。
デフレーションが深刻化すると、日本に限らず「構造改革」という声が力を持つ。デフレ期には国民所得の総計である名目GDPが伸びず、税収が減る。結果的に、政府の財政は必ず悪化する。そこで「構造改革」の主たちはこう叫んだ。
「国の借金で破綻する!」
こうして、増税や政府支出削減といった緊縮財政がセットで推進された。結果、デフレの真因であるデフレギャップ(=需要不足)は悪化し、デフレ深刻化を招くことになったのだ。
財政悪化とデフレ深刻化が交互に発生し、国民経済が縮小していく状況で、
「日本経済が成長しないのは、構造に問題がある。構造改革だ」
という主張が説得力を帯びるようになった。
そもそも構造改革とは民営化、規制緩和など、いずれも「供給能力を引き上げる」政策だ。供給能力が需要に対し過剰になり、デフレギャップが発生しているにもかかわらず、「需要削減策(緊縮財政)」と「供給能力拡大策(構造改革)」という、間違った政策が二重に実施されることになったのだ。当然デフレはさらに深刻化していった。
緊縮財政と構造改革で国民経済が痛めつけられる反対側で「新たなビジネス」が生まれた。代表的なキーワードは「雇用規制改革」「公的サービスへの民間資本導入」「外資への開放」。
例えば、橋本政権以降の「構造改革」により、日本では非正規雇用が増えていった。特に小泉政権下で「製造業」の派遣雇用を認めた影響は大きかった。
デフレとは利益を出しにくい環境であるため、企業には「いつでも契約を解除できる」派遣社員を雇用したいという需要が存在した。そうした企業の需要に応える形で、労働規制が緩和され、賃金を「中抜き」する派遣会社のビジネスは拡大していった。
政府の財政悪化が続く中、公的サービスに「民間資本の導入を!」という声も高まっていった。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)やコンセッション方式などにより、本来「公」が担わなければならない分野にまで民間企業が参入していった。信じられないことだが、日本ではすでに一部の「刑務所」の運営までもが、民間企業の「ビジネス」になっている。山口県の「美称」、兵庫県の「播磨」など、いくつかの刑務所がPFI方式で運用されているのだ。
政府の医療サービスへの負担が重くなると、即座に「混合診療の解禁」という話も出てくる。混合診療解禁で自由診療が増えれば、国民の医療費負担は確実に増える。その分、自由診療の「ビジネス」に資本を投じた企業や投資家は儲かる。
竹中氏は、現在、人材派遣大手であるパソナ・グループの取締役会長であることは以前書いたとおりだ。構造改革の裏で「ビジネス」を拡大した人々が、間違いなくいるのである。
◆プロフィール 三橋貴明(みつはし・たかあき) 日本IBMなどを経て08年に中小企業診断士として独立。ブログ「新世紀のビッグブラザーへ」は約100万件中、総合1位(14年5月現在)。単行本執筆、各種メディアへの出演、全国各地での講演などに活躍している。