試合後のセレモニーでのワンシーンが今、全米の野球ファンの間で論議を呼んでいる。
それはドジャースがリーグ優勝決定シリーズを征した10月21日(日本時間)のメッツ戦後、リーグ優勝トロフィーの授与式が行われた際のこと。チームを代表してムーキー・ベッツが、トロフィーを受け取った。全米の野球ファンが驚いたのは、記念撮影でドジャースナインが整列しようとしていた時、ベッツが大谷翔平に近づき、トロフィーを渡したシーンである。
「トロフィーを持たせてあげようと配慮したのでしょう」(現地記者)
これだけを聞くと、優勝後によく見かけるシーンのようだが、これは「ベッツと大谷のツーショット」であることに意義があった。というのも、
「米メディアは『今季のドジャースは内部崩壊するかもしれない』という目で見ていたからです」(メジャーリーグを取材するスポーツジャーナリスト)
いったい、どういう意味なのか。今季のドジャースにはMVP受賞経験者が3人もいる。ベッツ、大谷、フレディ・フリーマンだ。日本には「両雄並び立たず」のことわざがあるが、スーパースターが3人もいたらプライドがぶつかってしまい、収拾がつかなくなるのではないか…そう懸念されていたのである。
「ベッツが左手骨折の怪我から復帰したのは8月半ばでした。一時期、デーブ・ロバーツ監督が1番・大谷の打順を開幕当初の『1番・ベッツ、2番・大谷』に戻すようなニュアンスの発言をしましたね。結局は『1番・大谷、2番・ベッツ』になりましたが、あの時のロバーツ監督の発言は、ベッツのプライドに配慮したものです」(前出・スポーツジャーナリスト)
ベッツは1番という打順にこだわりを持っていたからである。現状として「大谷、ベッツ」の順がベストと判断されたわけだが、「いよいよ内部崩壊か」と勘繰るメディアは少なくなかった。
「ところがトロフィー授与でベッツから大谷に歩み寄ったことで、『ベッツは素晴らしい選手だ』の称賛が聞かれました」(前出・現地記者)
MVPトリオは他の2人のことを聞かれると、リスペクトする発言に徹してきた。ベンチ内でも笑顔で話すなど「今季のドジャースベンチは、例年よりも明るかった」との証言も聞かれた。
一部メディアはリスペクト発言を聞かされても「本当か?」と半信半疑だったそうだが、日本では報じられてこなかったこうした内幕を聞かされると、ベッツと大谷のツーショットには、本当に大きな意義があったと思えるのだ。
(飯山満/スポーツライター)