ミャンマー東部での〝犯罪拠点摘発〟が波紋を広げている。そこでは、日本人を含む1万人もの外国人が特殊詐欺に加担させられていた。なぜ人々は異国の地へと連れ去られたのか─。背後には「トクリュウ」の存在があるとされ、そんな犯罪集団に言葉巧みに引き込まれた男が組織の内実を語った。
「ジブン、親がいない家庭で育って、おばあちゃんに育ててもらったんすよ。だから、なんていうか、ホントはお年寄りを騙したりとかはしたくなかった‥‥。それでも、ゲンバとかに行くじゃないですか、そうすると自分が騙されているとは知らないじいさんが『ウチの子が起こした事件を解決してくれてありがとう』とか言って、本気で感謝してくるんすから。コッチは顔では笑っていても、マジ心の中はグサグサきてましたね」
警察庁発表による昨年のオレオレ詐欺、預貯金・キャッシュカード詐欺盗の認知件数は前年比約15%増加の1万303件。被害額に至ってはなんと約145%増加の492.6億円と、いまだ高齢者を狙い撃ちにした特殊詐欺の猛威は止まらない。
そんな中、冒頭のような悔恨の言葉を口にしたのは、北関東の「治安がサイアク」と自嘲する地方都市在住の20歳のAだ。小柄ながらもがっしりとした体格で金色に染めた長髪は、渋谷や歌舞伎町で目にする今どきの若者とそんなに変わらない。自分をおばあちゃん子だと自称するAはなぜ凶悪犯罪に加担してしまったのか。
「正直、周りが半グレかホンショクになるしか選択肢がないような環境だったんすよね。それで地元の先輩から『いい話がある』との誘いがあって、つい‥‥。最初にコッチにきた話だと、1日に2件くらいゲンバを踏む案件があって、金額だと200〜300万くらい。その10%がバックされるという話だったんす。1日で20〜30万円になるなら、まぁいいかなって」
オレオレ詐欺と言えば今さら言うまでもなく、老人宅に子供や警察、銀行などを騙る人物から電話がかかり、「事故に巻き込まれて示談金がすぐに必要だ」とか、「あなたが詐欺に巻き込まれている可能性がある」などと称し、振り込みや何らかの手数料の現金手渡し、あげくはキャッシュカードを詐取する手口だ。
そこには金を受け取りに来る「受け子」、口座から現金を引き出す「出し子」、これらを指揮する「指示役」などがいる。
Aは「受け子」を担当したという。
「カイシャでは、詐欺の手順に従って受け子を1番隊、出し子を2番隊などと呼んでました。さらに3番隊の運び屋、ここの連携を指揮する4番隊と続き、だいたいどこの組織でも7か8くらいまでの縦割り組織になっていた。特に1と2はいつも頭数が足りないから、兼ねるケースが多かった。そもそも1番隊が下手こいたら案件自体がポシャることになる。だから、いざとなったらおまわりをブン殴って逃げるくらい根性のある奴じゃないと務まらないわけですよ。つまりジブンみたいなのが一番適任だったわけっす」
ちなみに「カイシャ」とは、他人に聞かれてもバレないようにする隠語で、実際には事務所などの実態はなかったという。