弟の死は肥やし──。他人の不幸が自身の幸運に転じるという意味のことわざが、北朝鮮にあるという。2月13日に暗殺されたのは“異母兄”の金正男氏だが、事件をきっかけに、金正恩氏の「暴走王朝」はますます増長しそうな勢いだ。カネ、オンナ、暴力‥‥取材班がつかんだ「最終タブー」を渾身レポート!
【1】「街で銃をぶっ放していた」金正男氏の危ない素顔
01年の不法入国時に「ディズニーランドに行きたかった」と語り、日本ではある種の“愛されキャラ”だった金正男氏だが、「アジアプレス・インターナショナル」大阪オフィス代表の石丸次郎氏はこう語る。
「20代だった頃の正男氏は90年代の平壌において、悪い意味で有名人でした。市中心部の高麗ホテルなどで取り巻きや女性を引き連れて遊び回り、放蕩ぶりが頻繁に目撃されていました。激しやすい性格だったようで、酔って暴れたり、町なかで銃をぶっ放したりもしていたようです」
かつては故・金正日総書記の下で「武器販売」に従事していたと報道する海外メディアもあり、銃の扱いには慣れていたのかもしれない。暗殺後には正男氏の刺青写真がテレビで公開されたが、
「私が取材したある北朝鮮政府幹部は『あれはチンピラ、ヤクザの類いだよ』と評していた。彼をよく言う人にはあまり会ったことはありません」(前出・石丸氏)
現実は“将軍様”の威を借りたドラ息子だった。
【2】金正恩氏の愛人は父・正日氏の「お下がり」だった
艶福家でもあった正男氏には3人の愛人がおり、今回の暗殺では、その中の1人が「居場所をリークした」との“裏切り説”も流れた。
「韓国には3万人以上の脱北者が暮らしており、彼らから内部の情報がリアルタイムに伝わってきます」
と語る「韓国総合正論新聞」の李勝敏記者によると、腹違いの弟・金正恩氏の愛人は1人だけだという。
「普天堡(ポチョンボ)電子楽団の中心メンバーだった玄松月(ヒョンソンウォル)です。同楽団は、正日が韓流スターに触発されて創設したグループで、正恩の正妻・李雪主(リソルジュ)も在籍していました。正恩との仲を取り持ったのが正日で、彼の“お下がり”だとも言われています。その玄松月は、一時は処刑説も流れましたが、今も芸能活動を続けています」
正日氏が作った美女軍団「喜び組」も健在のようで、
「トップの正恩に限らず、側近や政治家の身の回りの世話をしているようです」(前出・李記者)
【3】北の後継者筆頭に躍り出た正男氏の息子・ハンソル氏
暗殺事件後、一気に注目が集まった正男氏の長男・ハンソル氏について、「コリア・レポート」編集長の辺真一氏が解説する。
「ボスニアやフランスに留学し教養レベルが高い。父の正男氏とは違って政治への関心も強く、インタビューで叔父の正恩氏を“独裁者”と呼んでいます」
後継問題では故・金日成氏の血筋に連なる“白頭血統”が最重要視される。正恩氏は、実母の高英姫(コヨンヒ)が日本生まれで“富士山血統”とも呼ばれ、「血の薄さ」にコンプレックスを抱いていると言われる。また、長男を重んじる北朝鮮の儒教的思想の観点からも、「長子(長男・金正男)の長子」であるハンソル氏こそが正当後継者だという声もあるのだ。
「韓国は正恩体制と対立する脱北者たちで亡命政権を作り、トップにハンソル氏を据えようとするでしょう」(前出・辺氏)
だが、徹底した情報統制によって、「ハンソル氏のことを知る北朝鮮国民は皆無」(事情通)だという。
「正恩氏にとっては邪魔な存在ですから暗殺を企てる可能性は考えられます。しかし、そうなると北はますます国際社会から孤立します」(前出・辺氏)
現在、消息がようとして知れないハンソル氏。父の二の舞にならなければいいが‥‥。