秋になると左党にとっては、お酒がおいしく感じる時期でもあります。
仲間内に下戸がいると、「かわいそうだな。こんなにウマいものが飲めないなんて」というセリフを口にする人もいるでしょうが、お酒は人種や遺伝的体質により、体内のアルコール代謝能力に大きな差が生じると言われています。
アメリカのサラリーマンは仕事終わりに、マティーニを2~3杯飲み、ワインを空けて、最後にバーでウイスキーをがぶ飲みする人が多いそうです。これを日本人が同じようにしてしまえば、多くの人がダウンしてしまうでしょう。これは肝臓のアルコール分解能力がアメリカ人と日本人ではまったく違うわけです。
同じ日本人でも酒を飲むと顔が赤くなる人と、そうならない人がいるように、ある研究によれば、縄文人型に大別される人々は酒が強く、弥生人型は酒が弱いと言われています。一般的に、黒潮沿いの沖縄から鹿児島、宮崎、高知の人々に大酒飲みが多いのも、縄文人型のDNAが受け継がれていると言われています。「“沖縄顔”は飲めて“公家顔”は飲めない」などという俗説も恐らく、お酒の遺伝体質を類型的に表した言葉だと思われます。
お酒を飲めない人や飲みすぎた場合、体内でアルコールを処理しきれず、頭痛や吐き気、翌日に二日酔いとなります。これは、アルコールの摂取量がアルコール分解能力(アセトアルデヒドの代謝能力)を超えるからです。
では、ここでお題です。最近は「二日酔い防止のドリンク剤」が数多く販売されていますが、これは飲むべきでしょうか?
医師の立場からすると、こうしたドリンク剤を飲むことはお勧めできません。二日酔い防止のドリンク剤は、諸症状を軽減してくれるだけで、決して肝臓が強くなるわけではないので、「ドリンク剤を飲んだからいつもより飲める」などと調子に乗れば、結果的に二日酔いになります。
中でも、東京都が毎年発表している、健康食品による副作用の報告集計によると、ウコンによる肝障害の症例報告が複数の医師から出されています。ウコンは肝臓を守る効果こそありますが、人によっては相性が悪く、ウコンにより肝障害を起こして入院するケースもあります。ウコンに限らず漢方薬や健康食品の場合も、自分の体質に合ったものを選ぶ必要があります。
接待などでどうしても飲まねばならない人は、ドリンク剤を飲むのも一つの手ですが、仲間との酒のように自分から進んで飲む場合、こうした類いのドリンク剤は飲むべきではありません
そもそも二日酔いとは「飲みすぎ」のシグナルであり、神様が「反省しろ」と教えてくれているサインとも言えるでしょう。自分の適量を探って飲むのが一番の二日酔い防止策です。
では実際に、二日酔いになった場合、どうしたらいいでしょう。肝臓のアルコールを分解するには水分と糖分が必要なので、スポーツドリンクを飲みましょう。病院では直接、血管に水分と糖分(ブドウ糖液)を点滴で打ってくれますが、私は二日酔いの治療は一切しません。二日酔いが消えるまで反省しなさい、というのが正しい治療法だと考えるからです。
若い頃は「人生修行」で済みますが、30歳を超えているのに翌日の仕事に支障を来すような飲み方はするべきではありません。
いい年をして二日酔いになる飲み方は「酒に対して失礼」です。酒飲みとして未熟だと自覚しましょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。