12年、3年間で28億7000万円もの馬券を購入し、30億1000万円の払い戻しを受けた会社員が所得を申告しなかったとして脱税起訴された事件は競馬界に衝撃を与えた。ところが、それをはるかに上回る驚異的な額の馬券裁判が進行中であることが発覚したのである。
30億円馬券裁判とは、1億4000万円の利益を上げた大阪の会社員に対し、5億7000万円という、とても払い切れない追徴課税がなされた、競馬ファン目線では実に不条理な一件。28億7000万円の馬券購入費のうち、外れ馬券分の27億円が必要経費として認められるかどうかが争点だった。一審で大阪国税局の「経費は当たり馬券の購入費のみ」との主張は退けられ、全額を経費と認める判決が出たが、大阪国税局は控訴し、5月にも控訴審判決が下されることになっている。これとほぼ同様のケースが先頃、明るみに出た。北海道の公務員男性(41)が78億円の払い戻しを受けていた件である。
「05年から10年の6年間で、72億7000万円分の馬券を購入し、払戻金は78億4000万円。5億7000万円の利益を得たことになります。男性は所得税額を2億1000万円と申告しましたが、札幌国税局は大阪のケースと同様、結果的に当たった馬券の購入費だけが経費であると指摘。支払うべき税額は5億7000万円を超えることになったため、男性は国を相手取り、東京地裁に取り消しを求めて提訴したのです」(社会部デスク)
男性は休日の土日にテレビの競馬中継を見ながら、年間2000回以上、ネットで馬券を購入したというが、その予想法たるや、天才的。司法担当記者が言う。
「大阪の会社員の場合は、競馬予想ソフトを使って自動的に大量購入するシステムでしたが、この公務員男性は自力で予想。独自の馬券理論を構築し、ノウハウを作った。ソフトとして作り上げているわけではありませんが、やっている作業は同様の感じでした」
例えば10年の有馬記念では、馬連3点を各10万円、3連複4点を各5万円、合計50万円分の馬券を購入し、5.5倍の馬連と116.1倍の3連複が的中。635万5000円の払戻金を手にしている。この場合、50万円のうち当たり馬券分の15万円だけが経費と認定されることになる。司法担当記者が続ける。
「この払戻金をさらに転がして増やすわけですが、例えば1レースで儲かったからそのまま2レースにつぎ込むのではなく、狙ったレースを決めてそこは多めに買うなど、レースごとに配分を変えていました。それを年単位で、まさに投資として位置づけていたということです。それにしても、予想ソフトなどで機械的にやるわけでもなく、レースごとの予想で78億円の払い戻しを受けるとは、天才予想家と言うほかありません」
馬の能力や騎乗する騎手の技量などを総合的に判断しての馬券術は決して奇をてらったものではないようだが、この「わらしべ馬券転がし」の手口はまさに当の男性の研究、努力のたまものと言えそうである。
ただ、訴訟の争点としては、予想方法がどんなものかということより、馬券の購入行為がどのような法的評価になるかに焦点が当てられる。
「国側は租税論の学者を出してきて、アカデミックな論争になっている。ただ、大阪の会社員の実質的な一審勝訴の判決は追い風になっていると思います」(社会部デスク)
判決が出るのは今秋以降の予定だという。