2人の生き方の違いが浮き彫りにされたのが「棋士の名言100 勝負師たちの覚悟・戦略・思考」だ。著者の後藤元気氏は渡辺と同門の兄弟子で指導棋士。羽生とも親交がある。将来設計に触れたところで、
「なんのために将棋を指すかは、70歳になってから考えたい」(羽生)
「40歳で引退して好きなことをやる。そういう幸せがあってもいいと思う」(渡辺)
という両者の対極的な人生観を紹介しているのだ。
渡辺はプロ4年目の04年、20歳で3歳年上のめぐみさんと結婚している。めぐみさんは伊奈裕介六段の妹。将棋関係者のお花見の席で知り合ってのデキちゃった婚だった。そしてこの年の12月に森内を破り、初タイトルの竜王を手にしている。前出・大矢氏が言う。
「竜王になったからといっておごるわけではなく、渡辺家は村山慈明や戸辺誠ら、若手棋士のたまり場になっています。渡辺が8歳の愛息・柊くんとは友達感覚で接しているのを隠さないように、棋士も柊くんの遊び相手になっている。実にオープンな家庭です」
一方の羽生が結婚したのは96年、25歳の時。その前年に史上初の全七冠を制覇していたことに加え、伴侶になるのはNHKの連続テレビ小説でヒロインとなった畠田理恵。将棋界のスーパーヒーローと美人女優の結婚とあって、メディアの格好の話題になった。
結婚後、畠田はおにぎり店を開くが立ち行かなくなり、10年には女性週刊誌が離婚危機を報じたこともあった。畠田が2人の娘とともに別居したからだが、次女のフィギュアスケートの練習のためであり、翌年には自宅に戻っている。前出・将棋関係者によれば、
「羽生の私生活がベールに包まれているからで、離婚報道は完全な有名税です」
離婚危機や家庭不和に直結するかどうかはともかく、各地を転戦するプロ野球選手やプロゴルファーなどと同様、棋士も頻繁に自宅を空ける。2日制のタイトル戦は地方で行われることが多く、前日に現地入りし2日間戦って自宅に戻るのは4日目になるからだ。
難解な戦いになるだけに3~4キロは痩せると言われるが、渡辺は違う。テレビ局中継スタッフが話す。
「出てくる食事はその土地の自慢料理。健啖家の渡辺は体重調整のために体重計を持参しているほどです」
野次馬精神も旺盛な渡辺は、海外対局でも現地の食べ物に喜ぶ様子をよくブログにアップしている。環境が変わっても順応できるからで、ハードスケジュールも気にしない体力は長丁場のタイトル戦で必ず武器になるはずだ。〈以下次号〉