高野連が「甲子園改革」に乗り出した。「タイブレーク制」導入に向け、加盟高にアンケート調査を実施。来夏の甲子園から実施される可能性も出てきたのだ。ところが、その是非を巡り論争が勃発したのである。
「球児たちの1球にかける思い、昨年からの因縁、高校野球ファンが見たいのは、そんな勝敗ではないドラマなんです。敗者にもスポットが当たるのもそのためであって、そのドラマをタイブレークは台なしにする。私は大反対です」
こう話すのは、多くの高校野球関連書籍の著者である上杉純也氏。
このタイブレーク制は、すでに国体や明治神宮大会の高校野球では採用されている。延長10回以降は、一死満塁という状況から始まる。打順も好きなところから始められるので、あっという間に点が入るという仕組みだ。
かつて、延長18回を戦い抜いて再試合という名勝負もあった。その後も延長15回までというルール改正はあったが、名勝負は存在する。06年の夏の甲子園決勝、駒大苫小牧と早稲田実業の再試合は記憶に新しい。こうした伝説の試合が生まれなくなってしまうのだ。しかも、時折しも駒大苫小牧のエースだった田中将大(現ヤンキース)が肘を故障。高校時代の投げすぎも指摘されている。
「今回のタイブレーク導入はアメリカの差し金なのではないかと思えてきます。そもそも、高校野球はベースボールではなく、日本の文化なのですから、守っていってほしい」(前出・上杉氏)
一方、アマ野球取材に定評のあるジャーナリストの美山和也氏の意見は違う。
「ファンを納得させるのは困難かもしれないが、私は早くタイブレークを導入すべきだと思っています。夏の地方予選を取材に行くと、熱中症寸前のフラフラの状態で試合に出ている選手をよく見ます。将来の故障うんぬんではなく、乱暴な言い方になりますが、このままだと死者が出かねない状態です」
尊重すべきは球児の体か、白熱するドラマか‥‥。
しかし、野球評論家の江本孟紀氏はこう斬言する。
「そもそも、タイブレークは、日本の社会人野球が発祥で、時間も資金も余裕がないから、決められた期間で大会日程をこなすために作られた制度です。延長が減れば、故障が減ると考えるのは非科学的。個人差もあるし、一夏にムチャな球数を投げる球児なんて、何人もいない。そんなに体をいたわりたいなら、野球をやめればいいんです」
かくいう江本氏は社会人時代にタイブレークを経験。みごとに勝利した。
「1試合だけでしたが、あの勝利は完全に運でした。サッカーのPK戦と同じで、つまらないものです。本当に球児の故障を減らしたいのなら、故障しない投げ方、トレーニング法をきちんと指導するのが先でしょう」(前出・江本氏)
はたして、日本の夏の風物詩、甲子園大会はどんな形へと変貌していくのだろうか。