関西在住の読者にとってなじみ深い「JR阪和線」。大阪天王寺から和歌山にまたがる大阪のベッドタウンをひた走る路線の利用客から不満が噴出している。不可解な事故が多発し、連絡する京都や神戸への全路線が遅れるという事態の理由は何なのか──。
阪和線に対する関西人の思い入れは深い。時は1929年、のちに国鉄(現在のJR)が買収する阪和電気鉄道が開通。戦後になって大阪から和歌山をノンストップでつなぐ特急列車も走らせ和歌山と大阪を結ぶ大動脈として活躍。現在まで85年にわたって関西人の生活とともに歩んだ阪和線も、近年は度重なる事故と運休を引き起こすトラブル路線として有名になってしまった。
去年までの6年間、阪和線の事故件数は関西圏でJR神戸線、大阪近鉄線に次いでワースト3位だが、11年から13年に起こった“事故”は実に判明しているだけでも35件に上る。
しかも、その運休理由がまた奇妙なのだ。10年には住民の干していた布団が風に飛ばされて線路に侵入。上下線20本が遅延や運休を余儀なくされる事態に陥った。そうかと思えば、12年には男性車掌が寝坊をして2本の運休。今月には突然の線路陥没で運転を見合わせた。
阪和線のトラブルは実に不可解な理由が多いため、ネット上では「また阪和線か」といったアキれた声が相次ぐばかりか、「ドジ路線」といううれしくもない愛称をつけられるありさまなのだ。関西の路線に詳しい鉄道ライターの尾崎洋氏が内情を明かす。
「鉄道マニアの間では、阪和線は『動く博物館』と呼ばれるほど型の古い車両を使っている路線で有名です。205系といった国鉄車両がいまだに使用されるのは関西でも珍しい。ただ、その反面、走っている車両が古いのであまりスピードを上げられないという難点があります。加えて線路と住宅地との距離が近いために速度を出せないのも遅延原因の一つ。布団が線路に入り込んだのも住宅と線路との間隔が近いからです」
そればかりか、阪和線特有の“事情”もある。
「阪和線には天王寺から和歌山へと向かう通常路線と天王寺から関西空港へ向かう2つの路線があり、両車両とも同じ線路上を走行している。そうなった場合、通常路線で遅れが出たとしても、関西空港行きは最優先で遅延が許されないのです。となると、他の鉄道の路線なら可能な回復運転ができず、朝の遅れが終電まで響いてしまうのです」(前出・尾崎氏)
また、運休につながるような踏切事故が多いのにも理由がある。沿線に住む地元関係者が解説する。
「阪和線は『開かずの踏切』と呼ばれる踏切が数多くあって、渋滞の原因としても以前から問題視されていました。しかも、遮断機が開くまで我慢できずに踏切内に侵入する人が多く、結果として人身事故につながってしまう悪循環が続いていた。近年になってようやく、高架工事に着手して解消の兆しを見せていますので、人身事故件数は今後減っていくと思います」
しかし、利便性の高さに加え、06年には阪和線が通っている大阪の堺市が政令指定都市となったことで、阪和線の利用客は増え続けているだけに、悩ましい状況は続く。
「阪和線は、発終着駅である天王寺や和歌山駅で下車する人が圧倒的多数。ラッシュ時は少しでも早く駅を降りたい人が改札に最も近い先頭車両に集中する。阪和線の車両は6車両と短めなのに、停車駅ごとに先頭車両に無理やり乗車しようとする利用客が多い。それで駅ごとに数十秒の遅れが発生して、遅延となっていく。このこともダイヤが乱れる原因です」(前出・尾崎氏)
遅延の原因を究明すべく、JR西日本の広報に尋ねると、
「そのお答えは差し控えさせていただきます」
と困惑した様子。地元民に愛される老舗路線が「ドジ路線」の汚名を返上する日はいつの日だろうか。