上野氏が言う。
「銀座では10年ほど前から中国人が押し寄せて来ています。一時は昏睡強盗まがいの客引き行為が目立っていましたが、当局の摘発で一掃されました。代わりに台頭してきたのが、中国人経営のクラブです。ホステスや従業員は日本人なんですが、財産を築いて本国に帰ろうと考えている守銭奴の経営者ですから、かなりあくどい行為をしています。銀座8丁目や9丁目付近に多く点在しています」
30万円の被害にあった記者がカードを使われたのは、まさに銀座8丁目の「F」というクラブだった。翌日にカード会社に調査を依頼したのだが、店名と住所、電話番号と使用された時間しか教えてくれない。
当然、そんなクラブに行った記憶はない。ただ仲間と別れて、わずか40分後にカードは使われていた。1人で30万円も飲み食いできるわけがない。記者は不正使用を訴えてみたが、
「カードが手元にあるということは、記憶がないとしても、ご自身が使用した可能性もあり、不正使用とは認められません。警察にご相談されては‥‥」
カード会社の担当者はバカ丁寧だが、要は自分で何とかしろという返答だ。ならば、記者は保護された警察署を訪れ、被害相談をしてみた。刑事課の捜査員が応対し、さすがに交番の警察官のように「民事不介入」とは言わないものの‥‥。
「確かに、遺失物横領にはならない。残るは詐欺罪だが、それだと被害者はカード会社になってしまう」
翌日、そのままカード会社に伝えると、またしても丁寧にこう答えるのだ。
「私どもとしては、お客様ご自身が被害者と考えておりますので、警察に‥‥」
警察とカード会社との間をたらい回しである。今度は記者も腹を決めて、先の捜査員に詰め寄った。「被害者ではないから告訴は無理でも、告発ならできるだろう!」と。捜査員が答える。
「ただ、あなたの処罰感情はかないませんよ。カード会社が被害届を出した前例はほぼゼロですから、その店を摘発はできない。もちろん告発となれば、カード会社はあなたに請求せず、保険で補って終わりになるでしょうがね。それでもいいなら、その晩のことを思い出してください。店に連れ込まれた様子やカードを出した状況とか‥‥」
記者は頭を抱えた。何も覚えていないのだ。
楽しい忘年会のあとに、こんな目にあわないためには、どうすればいいのだろうか。青島弁護士にアドバイスを求めた。
「忘年会に行く前にできる予防策は、必要以上の現金を財布に入れない、カードは自宅に置いて行くことぐらいです。そして、忘年会で酔ってしまったら、客引きについて行かないのは当然として、知らない店には行かないことです。偶然、居酒屋で隣り合った客と意気投合して別の店に一緒に行ったら、ボッタクリ店だったというケースもあるぐらいですから。基本的にボッタクリ店は人間の良心につけ込んできます。店員に付きまとわれている方も『無銭飲食にならないか』と心配されるのですが、納得できる料金の支払いを申し出て、向こうが拒否するなら、支払う必要はありません。もし、ボッタクリにあってしまったら、何よりも身の安全を最優先に行動することを心がけてください」
そして、「酒は飲んでも飲まれるな」。記者には痛いほど身にしみる格言だ。