順風満帆の杏だが、ここに至るまでの人生は波乱に満ちた茨の道だった。最大の要因は父である俳優・渡辺謙にあった。
渡辺は87年NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」の主役に抜擢され大ブレイク。さらにトム・クルーズと共演した03年公開の映画「ラストサムライ」を足がかりに、ハリウッド進出にも成功した世界的俳優だ。
杏が生まれたのは渡辺の出世作「独眼竜政宗」が放送される前年のこと。ちなみに2歳年上の兄・渡辺大〈まさる〉も俳優として活動している。
ただし杏の場合、数多の2世タレントとは事情がまったく違っていた。幼少時代は何不自由ない家庭環境だったが、89年映画「天と地と」の撮影中に渡辺が急性骨髄性白血病を発症したことで状況は一変する。
渡辺は全ての仕事を降板。一度は復帰を果たしたものの94年に再発するなど、完治までおよそ6年以上に及ぶ闘病生活を余儀なくされる。この出来事をきっかけに、家庭が崩壊してしまうのだ。
「高額な治療費もあって、まだ小さかった杏と大を抱えた妻の由美子さんは、苦しい生活の中で渡辺の闘病を必死に支えました。そんな中、ある歌舞伎俳優の紹介で出会ったのが宗教団体『釈尊会』の小野兼弘会長(故人)です。ちょうどそのタイミングで渡辺の病気が完治したこともあって、由美子さんは小野会長に心酔。由美子さんの勧めもあって、渡辺も釈尊会の護符を身につけたり、夫婦で宗教行事に参加するようになったんです」(芸能ジャーナリスト)
ここまでならまだよかったが、由美子夫人の信仰心は常軌を逸してゆき、01年には渡辺の自宅が税金滞納で差し押さえられたことが発覚する。原因は由美子夫人が作った借金だった。
「由美子さんは、杏の同級生の親たちからも借金をしており、その額は約2億5000万円。金は釈尊会や会長に送金されており、小野会長からも約4億5000万円の借金をしていたことが裁判で明らかになっています」(女性誌記者)
02年には渡辺が家を出てゆき、離婚と子供の親権を求めて夫人を提訴。2年に及ぶ裁判で泥沼の夫婦関係が世間に知られることになる。由美子夫人は裁判で「借金は渡辺の女性スキャンダルのもみ消しのため」「車やバッグの中に隠し持っている避妊具などを見ました」という証言をしており、不倫相手として多数の女優の名前をあげたことも話題となった。
「渡辺は全て否定しており、真相は藪の中ですが、思春期の杏にとって、こうした話が出たこと自体、ショックな出来事だったことは間違いないでしょう」(前出・女性誌記者)
借金返済は遅々として進まず、家を出た渡辺からの生活費も滞り始めた。杏は「借金を返せない要因に私たちの学費がある。それなのにのうのうと学校に行っていたら失礼だ」として高校を中退。モデルとして働き始める。
「兄も大学中退を考えていたのですが、杏は『男はやはり大学へ行って卒業するべきだ』と止めました。代わりにみずから履歴書を持って事務所に売り込み、モデルとしてサンミュージックに所属することになった。当初はギャラを前借りして家の生活費に充てていたそうですが、事務所には父親が渡辺謙であることはずっと隠していたそうです」(芸能評論家・小松立志氏)
05年、ようやく両親の離婚が成立するが、このわずか9カ月後、渡辺は女優・南果歩との再婚を発表。一方、杏はずっと母親に寄り添い続けており、個人事務所の社長に据えるなど、借金返済にも全面協力。すでに当時の借金はほぼ返済したとも言われている。