食欲の秋ですね。「天高く馬肥える秋」という言葉もあります。食べ物がおいしくて、ついつい食べすぎてしまい、太ってしまいがちな季節が、今真っただ中の秋と言えます。
そこで今回は、40~70歳で約940万人、予備軍を含めると1020万人(厚生労働省:平成16年国民健康・栄養調査より)にも及ぶというメタボリック症候群に向けて、「メタボの新常識」というテーマでお送りしたいと思います。
昔から、太りすぎは体によくないと言われます。日本人の死因のトップは、1982年から現在まで「ガン」ですが、日本人のガン検診率は、アメリカの80%に比べて20%から30%と低く、このガン検診率を高めることで、ガン死亡者はやがて少なくなると思います。さらに、ガンの治療技術が高まることにより、将来、ガンは少なくなる時代が来るかもしれません。となると、次に大きな病気というと、「心臓病」や「脳卒中」であり、これらの大きな原因の一つに太りすぎ、肥満があげられるのです。
ちなみに、年を取ると痩せにくくなるというのは本当で、その鍵を握るのが基礎代謝です。基礎代謝とは、体温を保ったり、呼吸をするなど、人が生きていくために使う必要最低限のエネルギーのこと。簡単に言えば、じっとしているだけでも消費するエネルギーです。1日の消費エネルギーのうち、基礎代謝はなんと70%を占めています。そして基礎代謝は14歳から17歳をピークに、その後、筋肉量が少なくなるとともに減少していきます。ですから、年を取ると痩せにくくなるというわけです。
本題に戻りましょう。「メタボの新常識」の一つに「痩せている人よりも小太りのほうが長生き」というものがあります。本当か? と疑う人もいるでしょうが、これは、統計的なものに基づく事実です。最近の研究で、小太りぐらいが最も長生きするという研究結果が出ています。アメリカでも独自に研究され、日本の厚生労働省研究班、東北大学研究グループでも、小太りが最も長生きとしています。
小太りの基準は、BMIが25から30ぐらいの人です。チェック項目(ページ下部)【1】でご自身のBMIを計算してみてください。18.5未満の人は痩せすぎです。痩せすぎは最も寿命が短いということが、研究で明らかとなっています。最近では若い人の過剰なダイエットや偏食、そして、お年寄りに比較的多い「新型栄養失調」(お肉などのタンパク質をあまり食べない人)が問題になっています。痩せすぎに警鐘を鳴らすことは、医学的にも大切なことです。
BMIが25から30の人が小太りです。小太りが長生きと聞いて、安心した人も多いのではないでしょうか。しかし、落とし穴があります。小太りの人は、その体形を維持すれば長生きできますが、ちょっと間違えると、小太りから本当に危ない肥満(大太り)になるので、侮れない! という点です。BMIが30を超えると、小太りではなく、大太りとなり、痩せすぎと同様に、寿命を縮めることになります。
チェック項目(ページ下部)の【2】以下は、肥満になりやすい生活習慣です。【2】のように1日1食か2食だと、空腹感が強くなり、どか食いをしやすくなります。その結果、カロリーを多くとることになるので、太りやすいでしょう。同じカロリーをとるなら、食事の回数を、3回よりもむしろ4回、5回に分けると血糖値が安定して、肥満対策になるという医師も多いです。
【3】の睡眠不足も太ります。実は、睡眠不足は満腹感を感じにくくするのです。睡眠時間が5時間の人は、8時間の人に比べて、食欲を強めるホルモン濃度が約15%高く、食欲を抑えるホルモンも約15%少なくなります。
【4】の早食いが太るのも本当です。食事により満腹感を感じるのは、胃が膨らんだという信号が脳に伝わるのに加えて、血糖値が上がって脳の満腹中枢というところを刺激するためです。しかしこれらの刺激によって満腹中枢が反応するまで約20分かかるため、食べ物を急いでかき込むことは、食べすぎの原因になります。反対に、ゆっくりよくかんで食事をすると、少ない量で満腹感を得られます。他にも唾液の分泌が消化を助けたり、顎の運動により、脂肪の燃焼が行われるという効果も期待されると言われているので食事はゆっくりと、よくかんで食べましょう。
【9】【10】のダイエットにも気をつけてください。一般に子供が好む三角食べと言われるおかずと御飯を一緒に食べることは、太りやすいことが明らかになっています。日本の懐石料理のように、野菜⇒肉⇒御飯の順番でゆっくり食べる方法は、太りにくい食べ方です。食べる順番ダイエットと呼ばれる方法で、この方法だと血糖値の上がり方が穏やかになり、その結果、太りにくくなることが医学的にも証明されているのです。どうしてもできない人は、せめて、最初に野菜だけをゆっくりかんで食べ、それから、三角食べをするといいでしょう。
また、【10】の急激なダイエットはリバウンドを起こしやすいです。ダイエットを続けていると、体が消費カロリーを抑えようとする時期が来ます。この時に食事をもとに戻すと、以前より消費カロリーが落ちているので、余った分を脂肪としてため込んでしまうのです。一般的に1カ月に体重の5%以上のダイエットはリバウンドしやすいので、80キロの人だと、1カ月に4キロ以上は減量しないほうがいいでしょう。
太る原因や、それを食い止める最もよい改善策というのは、人によって異なります。ちまたにはさまざまな流行のダイエットがありますが、よく考えずに飛びつくのは、時間と労力のムダです。誰にでもふさわしいダイエット法は存在しないとも言えますので、基本的な知識を身につけて、自分に合った、そしてずっと続けられそうな肥満対策を行うことが大切です。何とか小太りまでにとどめ、大太りにだけは決してならないようにしてください。
──メタボリック症候群チェック項目──
【1】BMI、すなわち、体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)の値が、25以上
【2】1日1~2食しか食べないが、食べる時は腹いっぱい食べる
【3】睡眠時間の平均が5時間未満である
【4】人より早食いである
【5】ストレスを感じると、何かを食べることで発散したくなる
【6】濃い味のものやこってりしたものが好きでよく食べる
【7】飲んだ後の〆のラーメンがやめられない
【8】寝る前に食べることが多い
【9】野菜⇒肉⇒御飯の順番で食べず、御飯とおかずを一緒に食べる
【10】新しいダイエット法があるとすぐに飛びつき夢中になるが、結局、長続きせず、リバウンドを繰り返している
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。