「お医者さんは自分で健康チェックができるし病気になっても心配ないですね」
私たち医師は、周囲の方からこんなふうに言われます。確かに、薬は身近にありますし、「体調がおかしいな」と思えば早めの対処もできますが、それはさておき、医師とは実に不摂生な職業です。
こんな話聞いたことありませんか? 大学病院では、朝からカルテが山積みで、患者さんが数時間待ちになるなど当たり前。夕方まで患者さんを診療し、そのあと、入院患者の待つ病棟を回り当直に突入します。深夜に緊急の患者さんが来なければ寝られますが、たいていは朝まで、何人もの急患を診断することになります。そうなれば、朝まで一睡もできません。翌朝には次の日の患者さんが待っており、36時間連続勤務、というケースすら珍しくありません。
いつ何時、緊急の患者さんがやってくるかわからないため、医師は労働基準法適用外の職業です。厚労省の扱いでは、夜勤は「睡眠扱い」のため連続勤務にはなりませんが、現実は「眠れる日」など少なく3交代の看護師さんとは労働環境はまるで違います。
こうした過酷な勤務状況も「オレが休むと患者さんが迷惑する」という正義感で、どうにかはねのけます。ほとんどの医師が真面目に働いているのも報酬ではなく、個々の人間の我慢でもっているため。実に過酷な世界でもあります。
さて、限られた時間内に数多くの患者さんを診る医師の食事は必然的に「早食い」になります。5分程度で食べ終わるなどザラで、早食いの習性があるため、医者同士の会食ではあっという間に食べ終わる光景が日常的に見受けられます。
8時間に及ぶ大手術を終えた深夜に焼き肉を食べてメタボになる、そんな医師もいるとおり、食の観点からは実に不養生な職業ですが、今回は「食後のどっち?」がテーマです。
下痢と便秘、どちらが注意すべき症状でしょうか?
答えはズバリ便秘です。下痢はひどい場合でも点滴をすればどうにかなります。もちろんコレラや赤痢は怖いですが、これらの感染症は衛生環境に恵まれた日本ではまずお目にかかりません。
逆に便秘は、長いこと便が出ないと、腸がポンポコになり腸閉塞を起こします。症状が悪化すると「吐糞(とふん)」と呼ばれる状態になり、口臭も大便のニオイがします。中には便が詰まりあまりの痛みに失神してしまうほどの怖い病気です。こうなると腸の一部を切除しなければならず、最悪の場合は死に至ります。便秘症の人で、トイレに行く前後に、以前にはなかった腹
部の激痛が起こったり、便秘の合間に下痢が繰り返し起きる時など、この症状の疑いがあり、早めに診てもらったほうが無難です。
加えて大腸がんのリスクも便秘のほうがはるかに高いという報告もあり、突然便秘になった場合には、大腸がんを疑ったほうがいいかもしれません。
男性には意外と下痢が多いですが、通勤中の電車などで下痢になる過敏性大腸症候群のようなストレス性の下痢にしても命に関わることはめったにありません。
食あたりが原因の下痢は、3回ほどの排便で腸内が空っぽになります。それでも止まらない場合は脱水症状を防ぐため、温かいこぶ茶などをチビチビと補給したあと、別の症状が疑われますので診療してもらうことです。
慢性の下痢症は極論すれば「食べても太らないラッキーな体質」と言えるかもしれませんが、便秘は命に関わる病気のシグナルの可能性もあるので注意してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954 年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。