長らく繰り広げられた理事長の椅子を巡るバトルがついに終幕を迎えた。敗軍の将が「肩の荷が下りたというか、すがすがしい気持ち」と総括すれば、完勝した新理事長は「ノーサイド」を宣言。だが水面下では、「第2ラウンド」に向けた遺恨タップリの「仕切り直しの一番」が始まりつつあった。
「春場所入りした頃は出羽海一門の親方衆は全員、貴乃花親方支持で、伊勢ケ浜親方を合わせれば5票入るはずだった。競馬で言えば、ゲートが開いたと同時に落馬し、ライバルがブッちぎりで逃げ切ったというテイですよ」(元力士)
昨年秋から激しさを増していた、日本相撲協会の次期理事長を巡る争いは、3月28日の理事会でついに勝負が決した。
親方の理事10人による互選で、立候補した八角親方(52)=元横綱北勝海=と貴乃花親方(43)=元横綱=の一騎打ち。出羽海一門の4親方(春日野親方、出羽海親方、境川親方、山響親方)、伊勢ケ浜一門の伊勢ケ浜親方、二所ノ関一門の二所ノ関親方と尾車親方、時津風一門からは鏡山親方と、立候補した2人を除く8人の理事が投票し、6対2の大差で八角理事長が再選されたのだ。貴乃花親方に投票したのは伊勢ケ浜親方と山響親方の2人だけだった。
負けた瞬間、うつろな表情になり、府立体育館の一室を山響親方と退室した貴乃花親方。圧倒的有利だったはずの形勢はいかにして瓦解していったのか。
貴乃花親方は今回の選挙に出るにあたり、北の湖前理事長の側近だったK氏と、相撲協会の外部理事である元東京地検特捜部の宗像紀夫氏を頼った。K氏はかつて、相撲協会のパチンコ台ライセンス契約に絡んで、パチンコメーカーから「裏金」を受け取ったとされる「疑惑の人物」だ。前出・元力士が舞台裏を明かす。
「北の湖理事長に登用されたK氏は協会顧問として、必要のない国技館のエレベータ工事をやって億の大金を出させた。その他、ピザ、タコ焼き、弁当などでこれまで協会に縁のなかった業者を入れて、甘い汁を吸っていた。晩年の北の湖前理事長もK氏のやりたい放題に『どうしてあんなのを入れてしまったんだ』と後悔していました」
K氏は協会に内部留保されている70億円を使い、ある会社の企業債権を購入する計画も立てていた。相撲協会関係者が憤る。
「その企業が倒産しようものなら、債券は紙クズになる。そもそも70億円もの大金を投資につぎ込むこと自体に疑問を抱いていた八角理事長はK氏に説明を求めました。するとK氏は『内部留保がこんなにあると受け取られてしまうので、とにかく早く処理しないと。内閣府にもスポーツ庁にも指導されている』と答えましたが、八角さんは内閣府とスポーツ庁に出向いて問い合わせ、『そんなことは一切、言っておりません』との回答を得た。K氏がウソをついていたことがわかり、解雇したんです」
ところが、クビになったはずのK氏は、その後も隠然たる力を保持。K氏を擁護する宗像氏も昨年冬のボーナスとして750万円もの大金を手にした。他の理事からそれを批判されると「それだけのことをやった」と開き直り、貴乃花親方もこれを擁護。
「協会内では、相撲界を食い物にする人物として、強い批判がうずまいていた。貴乃花親方にも憤る親方衆は増えていきました」(前出・相撲協会関係者)