世間では映画「君の名は。」がモンスターヒットとなっているが、こちらの作品のヒロインの“名前”もなかなかだ。
「リンダ リンダ リンダ」(05)、「天然コケッコー」(07)、「マイ・バック・ページ」(11)など、派手なエンタメではないが、常に満足度と共感度の高い作品を監督し続けていることで定評のある山下敦弘監督の新作、オダギリジョー主演の映画「オーバー・フェンス」の評判がすこぶるいい。特に体当たり演技でヒロインを演じた蒼井優が「さすが」の名女優ぶりで魅せている。
「主人公は妻と子どもと離ればなれになり、生きる目標を見つけられないでいる中年男。ヒロインは名前を“聡(さとし)”といい、名前のせいで苦労したが、親はバカなだけだから責めないでほしいと自己紹介する夜の女。こんな、いつの間にか世間からはじき出されていた男女が惹かれあい、ぶつかり合い、紆余曲折を経て何かを見つけるというストーリーは、2012年度のアカデミー賞作品賞にもノミネートされた『世界にひとつのプレイブック』(デヴィッド・O・ラッセル監督)を想起させました。“プレイブック”で奔放だが本当の心は閉ざし、艶っぽいがじつは乙女の心を持つエキセントリックなヒロインをコミカルに演じ主演女優賞を獲得したのは、ハリウッドの若手ナンバーワン、ジェニファー・ローレンス。しかし、今回の蒼井優の“ぶっ飛び”ぶりはそのジェニファーと遜色ないどころか、むしろ蒼井のほうが上だと感じましたね」(エンタメ誌記者)
コメディタッチだった「プレイブック」とは違い、「オーバー・フェンス」は都会の喧騒とは無縁の函館の職業訓練校を舞台にしたストレートな人間ドラマ。それだけに、透き通るような青い空と何もない地べたの間に挟まれた“負け犬”たちの葛藤と希望が痛いほど伝わってくる。中でも、蒼井のむき出しの心をぶつけてくる“怪演”が耳をつんざき、視界に土足で飛び込み、観るものを圧倒するはずだ。
「オダギリ演じる白岩と結ばれる直前、蒼井が一糸まとわぬ白い柔肌をさらしてある行動をとります。これが、まるで人気がなくなったときに鳥がする行為に似ている。この“鳥”というのがこの作品では重要なキーワード。鳥の求愛を真似るシーンが頻繁に登場します。決して絶世の美女ではない、誰とでも“やってしまう”むしろ面倒な女、そんなヒロインになぜ主人公は惹かれてしまうのか。ぜひご自分の目で確かめて、できればカップルで印象を語り合ってほしいですね」(前出・エンタメ誌記者)
映画は9月17日(土)より全国公開だが、「君の名は。」とは一味違う、男と女のリアルかつファンタジックな出会いがここにはある。