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週刊アサヒ芸能「創刊60年の騒然男女」スポーツ界「波乱のウラ舞台」<相撲篇/葬られた「確執」>(2)「若貴絶縁」を決定づけた親方の「わかってるな」命令

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 昭和63年の春場所で初土俵を踏んだ力士は95人いる。その中から3横綱1大関を含め11人の関取を輩出したため、その年デビューした力士を「花の63組」と呼ぶ。この同期会に一度も現れない人物がいる。元横綱・若乃花こと花田虎上である。元力士が言う。

「お兄ちゃんはアレを気にして、金輪際、顔を見せない。若貴の絶縁は『あの一番』が原因。永遠に復縁なんてないでしょうね」

 大相撲を揺るがせた歴史的スキャンダルの一つに、この力士が言う「あの一番」がある。元力士が続ける。

「95年、九州場所千秋楽の前夜、師匠で父親でもある二子山親方(元大関・貴ノ花)が4連覇を狙う横綱・貴乃花を宿舎の自室に訪ねた。そして『光司(貴乃花の本名)、明日はわかってるな』と念を押したんです」

 相撲界では珍しい、兄弟対決が目前に控えていたのである。

「貴乃花は一瞬、何のことかわからず、『ハイ?』と答えましたが、親方は承諾したものと受け取った。意味を聞こうとした貴乃花が付け人から、親方が去ったあとで、『光司、負けてやれって意味だよ』と言われ、愕然としたんです。そしてこの親方命令によって、貴乃花の中の父親像がガラガラと崩れていった。二子山親方は若乃花に『光司も承諾したから』と伝えたといいます」(前出・元力士)

 勝負はファンの熱戦の予想を裏切り、四つに組んでから若乃花が左からしぼり、右四つに。

「土俵際に寄りたて、左から下手投げを打つと、貴乃花は右膝からあっさり崩れ落ちた。若乃花の2場所連続優勝で、兄弟横綱誕生を決めた瞬間でした」(相撲ライター)

 あまりにあっけない勝負に、「片八百長」ではないかと指摘された「疑惑の一番」である。これを機に、2人の間柄は、マスコミで大きく報道された「若貴兄弟絶縁騒動」へと発展。兄弟の確執が大きくなるにつれ、沈黙を守り続ける若乃花に対し、貴乃花はマスコミで積極的に発言した。

 そして兄弟対決から10年が経過した05年6月の「スーパーモーニング」(テレビ朝日系)の番組上、貴乃花は漫画家のやくみつる氏の質問に「片八百長」を事実上認めたとも言える発言を行ったのだ。

やく「軋轢の原点は、ハタ目に見てもちょっと力が入っていない一番に見えたが、あそこだったのか」

貴乃花「それは間違いじゃあないですね」

 すかさず、他の出演者が畳みかける。

「(あの一番が兄との)相撲観の差を決定するに至ったのか」

貴乃花「そうですね。私の至らなさだと思っています」

 相撲人生でただ一度、力を抜いてしまった大一番。ベテランの相撲記者が解説する。

「二子山親方は情が厚いどころか、むちゃくちゃ濃い人でしてね。相撲にも全身全霊で打ち込むが、我が子の若乃花に訪れた優勝のチャンスを何とか引き寄せられるよう援護したかったということだと思いますよ」

 しかし当時、平成の大横綱と言われた貴乃花も、まだ23歳。正面から受け止めるには重い事実だった。

「父親の性格や相撲道を最も強く受け継いだのが貴乃花。が、彼は天才で難なく横綱に昇進したというのは間違いです。素質だけで取っていたのはむしろ、若乃花。貴乃花は死ぬ思いと不断の努力で頂点に立った」(前出・ベテラン相撲記者)

 2人のこの差が「相撲観」の違いになって表れたと言えなくもない。そしてそれが、兄弟の確執に──。後年、貴乃花は部屋に集まった報道陣を前に、こう語っている。

「“若貴兄弟”と取り上げてくれるのはうれしかったが、あまりにもきれいに映りすぎていた。必ずこういう時が来るなと、幼心にもわかっていた」

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