福島第一原発の所長を巡ってスキャンダルが発覚。「蜜月関係」がささやかれる下請け会社の作業員数を水増しして不正請求させ、キックバックを受けているというのだ。新車やはたまた女性関係までおねだりして私腹を肥やしている疑惑について、複数の作業員が証言した。「フクシマ」の現場でいったい何が起きているのか──。
「大手ゼネコン『X社』のS所長と一次下請けの『Z組』の癒着関係は、現場では有名な話。X社の幹部の耳にも入ったようで、外部に漏らさないようにかん口令が敷かれています」
重い口調でこう語るのは、東京電力福島第一原発で働くA氏である。作業現場ではさるセクションのS所長に「不正疑惑」が浮上して、騒動が広がっているというのだ。
福島第一原発の事故から6年以上がたった。今も、作業員たちは大量被曝の危険性と隣り合わせの環境で働き続けている。それでも6月には、準大手ゼネコン「安藤ハザマ」(本社・東京)が、除染作業員の宿泊領収書を改竄していたことが発覚。福島県いわき市と田村市から計8000万円を水増し受給していた。このことで、東京地検特捜部は詐欺罪などで本社を家宅捜索するため、強制捜査に乗り出している。が、こうした不正はあくまでも氷山の一角だった。
元請けのゼネコンX社は、放射性物質の拡散を防ぐ役割を担うなど、東電から重要な仕事を引き受けている。同社の社員であるS所長は工事に関わる責任者で、「下請け会社にしたら、雲の上の人」(前出・A氏)として、現場を仕切っている。
そのS所長に疑惑の目が向けられる“発端”となった出来事が起きる。前出のA氏によれば、
「昨年冬、原発内で燃料取り出し作業に従事していた二次下請けの作業員が、仕事中に右足を骨折したんです。それでもZ組の上の人間から『黙ってろ』と言われて、翌日から現場で姿を見かけなくなりました」
その人物が戻ってきたのは、約2カ月後のこと。骨折はすっかり治っていた。親しい作業員には、
「病院で診てもらったら、やはり骨折だった」
と話していたという。だが、作業中のケガにもかかわらず、労災を申請することはなかった。その理由について、A氏はこう続ける。
「日頃からS所長は、無事故・無災害を目標に掲げています。作業員の目につく場所には、〈無事故・無災害日数○時間達成〉という掲示があり、下請け会社はケガ人が出るのを恐れている。S所長の会社での評価を下げることになり、今後の仕事にも影響が出るので、先ほどのケースでもZ組が口封じさせました」
過去には作業員たちが労働環境に疑問を持つ騒動も起きていた。やはり福島第一原発で働く、B氏はこう述懐する。
「別の下請け会社でも仕事中に鉄骨が落ちてきて、作業員が指を切断する事故が起きたんです。その時は申請を出して、労災認定を受けています。それからしばらくして、その会社の従業員が全員、理由もよくわからないまま連帯責任を取らされる形でクビを切られたのです」
この“恐怖政治”とも言える一件により、またしてもZ組がもみ消しに走っていたのでは、と他の下請け会社の作業員たちの間では不信感がふつふつと芽生えるようになった。
「Z組が他の下請けに比べて、S所長から優遇されていることに気づきました。例えば、自分たちが作業をしている間、Z組の作業員は30分くらい仕事をしただけで、あとは昼寝ばかり。S所長が気づいても特におとがめはないのです」(前出・B氏)