先日、外出中に、50歳ぐらいの女性が目の前でふらっとよろけた場面にでくわしました。その方いわく「ここ数日、めまいがするんです」とのこと。とっさに「突発性めまいではないか?」と、「1分以内で治まりますか?」と尋ねました。
突発性の病気は他にも、いきなり耳の聞こえが悪くなる「突発性難聴」も大きな不安に駆られますが、突発性のめまいと難聴では、どちらがより重篤な病気と言えるでしょうか。
耳の役割は「平衡感覚を保つ」と「音を聞く」に大別できます。めまいの症状は平衡感覚に由来していますが、難聴は聴覚の障害となります。
突発性めまいの正式名称は「良性頭位変換性めまい症」といいます。5年前に澤穂希さんが発症し、広く知られるようになりました。
耳の中の平衡神経をつかさどる器官である三半規管の調子が悪くなる症状が突発性めまいです。
三半規管には縦横前後をつかさどるセンサーがあり、目をつむっていても、自分がどの方向に向いているかがわかるようにできています。暗闇でも転ばずに歩けるのは、三半規管が体の動きを捉え、平衡感覚が保たれているからです。
この三半規管が何かの拍子で調子が悪くなると平衡感覚が狂います。その代表的症状が「乗り物酔い」です。例えば、揺れるバスの中で気持ち悪さに襲われることがあると思います。これは、三半規管が誤作動を起こしているのです。
船に長く乗っていると知らぬ間に船酔いが治まることがあります。これは三半規管が船の揺れに順応するためです。船を降りた際に丘酔いするのは、揺れる船に順応していた三半規管が、揺れない丘に順応できないからです。
この三半規管の中にある「耳石」の位置がズレると突発性めまいが起こります。良性頭位変換性めまい症という病名のとおり、良性なので心配はいりません。枕を高くして三半規管を耳石より高い位置にしたり、顔を左右上下に傾けて10秒ずつ動かし、耳石の位置を修正します。
めまいには「良性」「悪性」「仮性良性」の3種類があります。良性は内耳周辺、悪性と仮性良性は小脳周辺に病巣がある場合で、脳梗塞やガン、脳腫瘍のように生命に危険があると悪性とされます。良性では頭痛を伴う場合もありますが、時間がたてば自然に治りますし、医療機関で適切な治療を受ければ治ります。
ただし、めまいと難聴、耳鳴りなどが同時に起こる「メニエール病」は例外です。こちらは突発性めまいよりも重く、発作も数時間続くので、できるだけ早めに治療を受けてください。
対して突発性難聴とは、三半規管の外側にある蝸牛(かぎゅう)という、音を聞く装置の障害です。ある日突然、聴力が落ち、片方の耳がほとんど聞こえなくなる原因不明の病気です。
人に呼びかけられても気づかない、テレビの音が聞こえない、耳鳴りがする、聞き間違いが増えた、「話し声が大きい」と言われた、などの症状が該当します。
突発性難聴を治すには「治療の開始時期」が重要です。突発性難聴の場合、初期に治療を始めなければ「片耳の聴力が失われる危険」があり、その目安は10日から2週間以内です。この間にステロイドの点滴を打つと、不思議とよくなります。5日~1週間ほど点滴を続け、途中から飲み薬に変えると聴力は戻ります。
つまり「早い段階のステロイド治療」が必須条件で、この間に治療を受けないと、片方の聴力を失う可能性が大きいのです。治療が遅れると聴力が失われる分、突発性難聴のほうが危険でやっかいです。いきなり聞こえが悪くなったら、早めに受診してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。