11月7日付の「日刊スポーツ」紙の報道によると、2024年に第100回目の記念大会を迎える箱根駅伝の「全国大会化」が検討され始めているという。
このニュースを聞いて、「えっ? 箱根駅伝って全国大会じゃないの?」と思った人もいるだろう(実際、私の周囲にも何人もいた)。
正月恒例の行事として、日本テレビの全国中継で25%前後の視聴率をあげる超ビッグ・スポーツ・イベントだけに、それを全国の大学が参加する大会だと勘違いしている人もけっこう多いようだ。
が、実は箱根駅伝は関東学生陸上競技連盟が主催し、その連盟に所属する関東の大学(約150校)の中の20校(前年大会10位以内のシード校10校と予選突破の10校)しか参加できないローカル大会なのだ。
大学駅伝の全国大会としては熱田神宮から伊勢神宮までを走る「全日本大学駅伝(秩父宮賜杯全日本大学駅伝対校選手権大会)」と、「出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)」があり、この両大会と箱根駅伝を制した大学が「大学駅伝三冠制覇」などとマスコミが賞賛する(昨年青学大が達成。過去には大東文化大、早大、順天堂大も達成)。そのため、お正月の全国ネットのテレビ中継とともに、箱根駅伝も全国大会だと錯覚し、誤解が広がったようだ。
しかし、そんな誤解のほうが「正しいカタチ」と言うべきだ。何しろ大学駅伝の人気ナンバーワン・イベントを関東の大学だけが独占しているため、中長距離の有望な高校生ランナーの多くは「箱根」を目指して関東の大学に集中。大学の中長距離陸上界は、関東とそれ以外の大学で大きな格差が生じている。ならば「箱根の全国化」がまだ7年先というのは遅きに失していると言うほかない。もっと早期の実現を目指すべきだろう。
ところが今年の全日本大学駅伝では1位から15位までを、箱根でも活躍する関東の大学が独占。出雲駅伝でも9位までが関東の大学で、この結果から箱根に関東以外の大学が出場しても勝てない(だから全国化に意味がない)とか、予選を突破できないのでは‥‥という声まである。
が、バカも休み休みにしてほしい。そのような極端な「格差」を生んだのが「箱根」であり、関東の大学の駅伝ランナーの多くは関東以外の出身者。彼らが地元の大学で「箱根」を目指すようになれば、いずれ格差も解消し、全国的なレベルアップにもつながるはずだ。
そもそもスポーツは、一切の「属性」で差別されず、誰もが平等に参加できることが大原則だ。が、大学スポーツには、大学という「属性」に所属していなければ出場できないという、スポーツの大原則と矛盾する前提が存在する。そのため、新たな「属性」(関東の大学だけ)が加わっても、その「差別」や「利権」を見逃すケースが少なくないのだ。
例えば箱根駅伝という人気イベントに女子部門が存在しない(女子ランナーは参加できない)のも、オリンピック等で推進しているスポーツの男女同一種目での実施原則に反していると思えるが、それを指摘する声は聞かれない。
また箱根駅伝の放送のために日本テレビが支払っている放送権料は2億4000万円と言われている。が、「箱根」の出場大学には出走料として各大学に200万円(20大学で合計4000万円)が支給されるだけで、関東学生陸上競技連盟は、その決算を公表していない。
それは以前からの「慣例」で連盟は任意団体であり、決算報告の義務もなく、報告すべき上部の管理組織もないからというのが実情だ。が、こんな杜撰な「慣例」のままでいいはずもなく、「全国化」をきっかけに組織改革にも手がつけられるべきだろう。
(玉木正之)