1年を思い返す季節となったが、今年の政治をどう振り返るべきか。
俗に「モリカケ問題」と言われる森友学園の国有地払い下げと加計学園の認可問題、相次ぐ閣僚の失言などのスキャンダル。そして大義なき総選挙で野党が分裂した。確かに、活劇のような目をみはる展開はあった。
だが、総選挙後も体制は変わることなく、国会答弁はのらりくらり、野党も疑惑を追及しきれない。何より、将来の不安を解消するための長期的な「人づくり革命」の細部を詰める作業は年越しとなった。
出来事を振り返っていくと、政策的にも与野党の構図にしても、政治遺産はほとんどない。まさに「不毛な1年」だったと言えるのではないか。
では、活劇の主役たちはどうだろう。まずは、安倍晋三首相。側近議員の一人は「通常国会中盤から総選挙前まで長い苦渋の半年だった」と総括する。
それは「モリカケ問題」に関して、夏に行われたマスコミ各社の世論調査で、内閣支持率で不支持が支持を上回ったことに始まっている。森友で籠池泰典前理事長夫妻、加計では前川喜平前文科事務次官らが参戦。ところが、安倍首相の抗戦となる答弁では肝心なところで「記憶にない」「資料がない」と突っぱねることに終始したのだ。
本質的には安倍首相の指示、もしくは周囲の忖度という事実よりも、首相の不誠実さが仇になった。国民が求めていたのは、謝罪や無実の訴えなどではなく、説明責任を果たすことだった。いまだモリカケを払拭できたとは言いがたい。
「総選挙後、内閣支持率は復活したが、来年の総裁選では安倍首相以外を求める声のほうが多い。国民が感じた不誠実さが消えていないからだ。年が明けて一つでも火種がくすぶれば、総裁選3選に暗雲が垂れこめるかも」(前出・側近議員)
続いて、もう一人の主役といえば、やはり小池百合子東京都知事だろう。
年初に千代田区長選挙で都議会のドン、内田茂前都議との対決を制し、「小池劇場」は幕を開けた。さらに、夏の都議選で都民ファーストの会が圧勝。まさに破竹の勢いだった。
ところが、総選挙で一気に下降する。みずから希望の党を立ち上げたまではよかったが、民進党との合流を巡る「排除発言」、さらには、政策協定という「踏み絵」で有権者の反発を買い、希望の党は敗北した。そして、玉木雄一郎新代表就任と同時に代表を辞任するに至った。
小池氏の1年は、まさに乱高下だった。失言の原因も政権交代への高揚感とされている。その後、支持率低下の影響は大で、肝心の都政が停滞。都庁職員や都議会自民党や公明党の抵抗にあっている。苦しい立場にあることは間違いない。
来年もこのまま苦境が続くのだろうか。
「年明けの都議会に提案する予算案の攻防で『小池色』を出して、自公とどう対決するか。そこを乗り切れば、豊洲新市場への移転と並行して、再び具体的なプランを伴う形で『築地再開発』をぶち上げれば、目玉政策にできる。国政でも、保守系野党で同じく党勢にかげりのある維新の会や橋下徹氏と組むなど、世論の動向を見ながら、起死回生策を仕掛けてくるはず。簡単に心が折れてしまうような人ではない」(小池氏周辺)
今年の「不毛」な混迷は来年に尾を引きそうだ。これが本当に活劇の主役が演じる物語なら許される。しかし、舞台は政治である。せめて、来年の主役たちには「活力ある自民党総裁選」と「都民のための改革」を見せてほしいところだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。