12月20日に第158回直木賞の候補作が発表され、人気バンド「SEKAI NO OWARI」(セカオワ)のSaoriが藤崎彩織名義で発表したデビュー作の「ふたご」がノミネートされた。その「ふたご」は10月28日に発売されたばかりで、わずか2カ月未満での候補選出には多くの批判が寄せられている。
ネット上には「直木賞の権威も墜ちたな」「又吉で味を占めた文藝春秋が二匹目のどじょう狙いか」といった批判が続出。「ふたご」を読んだことのない層から、作家Saoriへのディスりが飛んでいる。しかし、出版社の文芸担当編集者は、それらの批判が的外れだと切り捨てる。
「そもそも直木賞は無名の新人を発掘するための賞として発足したもの。その後は中堅作家にまで対象を広げ、ベテラン作家が受賞する功労賞として認知されがちですが、最近でも2012年の宮内悠介『盤上の夜』や14年の木下昌輝『宇喜多の捨て嫁』など、デビュー作での候補選出は珍しくありません。そもそも直木賞を創設した菊池寛自身が、芥川賞や直木賞は雑誌『文藝春秋』を売るための手段だと認めていますし、知名度のあるSaoriのノミネートは直木賞の趣旨に合っているんです」
それでも巷では、直木賞が大衆に迎合しすぎていると批判している向きも少なくない。だが、その声もお門違いだという。
「直木賞が対象としているのは“大衆文芸作品”です。その点で、人気アーティストがみずからの経験を踏まえて書き上げた若手バンドを巡る物語は、まさに大衆小説そのもの。むしろ『ふたご』を候補に挙げずして、何を候補に選ぶのかといいたいぐらいの話ですよ。本来、誰が何を書いても自由であるべき文芸において、『アーティストだから』という色眼鏡でSaoriを批判すること自体、文芸の本質から外れているのではないでしょうか」(前出・文芸担当編集者)
ジャンルは違えど15年の芥川賞受賞作「火花」は300万部越えのベストセラーとなり、芸人・又吉直樹はいまや作家として扱われるようになった。はたしてSaoriの作品はどれだけ売れるのだろうか。
(金田麻有)