現役騎手の立場でありながら、みずからの職場であるJRAを猛烈批判し、馬主や騎手仲間にも名指しで苦言を呈する。十分すぎる実績を残してきた実力者とはいえ、「タブー」に挑んだ衝撃はGI級。「競馬界の番長」ならではの暴露本出版に、現場からはどよめきの声が上がっているのである。
目次を見ると、いきなり「序章 さらば競馬界」の文字。引退が決定したかのような決別宣言から始まるのは、5月17日に発売された藤田伸二(41)の著書「騎手の一分」(講談社)である。天皇賞、日本ダービー、ジャパンカップダート、宝塚記念、有馬記念などGIを16勝する一方で、ヤンチャな性格と言動から「番長」と呼ばれる剛腕騎手の衝撃暴露が、これでもかと続くのだ。
〈俺は騎手としてすべてやり遂げたからもう辞める、とまでは言わないけど、「もうやることがない」という気持ちはある。(中略)「今、勝ちたいレースは何か」と訊かれても、もう特にない〉
こう書いたうえで、引退後は調教師にも馬主にもならないと断言し、競馬界の将来を憂うのだ。
いきなり飛び出すのは、同僚騎手への苦言や批判。
〈もし、昨年のレース中、後藤が落馬した事故で、俺がそのきっかけを作った康誠の立場だったら(中略)自粛もせずに乗りつづけるなんて、絶対にできない〉
昨年5月6日のNHKマイルカップ(GI)で、岩田康誠(39)の騎乗馬が斜行し、進路を塞がれた後藤浩輝(39)が落馬、頸椎骨折の重傷を負った。栗東トレセン関係者が言う。
「岩田が『あんなやつ、落としたったわ』と発言したといいます。さすがにそれはないやろ、と騎手や関係者の間で話題になりましたが、藤田はそれを言いたかったんじゃないかな」
藤田は、今年55勝で全国リーディング1位(6月7日現在)の岩田の騎乗スタイルにもダメ出しした。
〈康誠のように馬の背中にトントンと尻をつけるような追い方だけは、絶対に認めたくない。(中略)馬の背中を痛めてしまうから〉
さる厩舎関係者はこれに同意する。
「馬の背中の筋肉は収縮するわけだから、そこにドンと尻がついて推進力がアップするとは思えない。かえってマイナスだと思う」
藤田は蛯名正義(44)も岩田のマネをしていると批判しているが、
「ある厩舎が『蛯名が乗って馬の腰がダメになった』とボヤいていた。岩田が後藤落馬で毒づいたのは、後藤も岩田の乗り方を認めていないからでしょう」(専門紙トラックマン)
藤田がこうして断じるのも、自身が22年以上の騎手生活でフェアプレー賞17回、特別模範騎手賞を2回受賞するクリーンな乗り手を標榜しているからだろう。
さらに福永祐一(36)についても、
〈体重が後ろにかかって、懐が開き過ぎることがある。膝でバランスを取ろうとしているから、膝がカックンカックン動いてしまうのはそのせいだ。それでいて、勝ちにこだわった乗り方もしていない〉
とボロクソなのである。