将来ある劇団女優が自宅で襲われ、遺体で発見。不可解な点がいくつも残る密室殺人の捜査線上には、複数の男が浮上しては消えていった。そんな中、捜査員が注目する「謎の男」を巡って、にわかに新展開を迎えている──。
「8月25日夜、ドタドタという音がして、『うー』『何で』という女性のうめき声が聞こえました。今にして思えば、首を絞められているようなかすれ声でした」
これは東京・中野区弥生町の住宅街に建つマンション1階に住む男性の証言だ。翌26日の午後10時、2階の部屋では、同じく住人の劇団女優・加賀谷理沙さん(25)の絞殺体が発見されたのである。警視庁は殺人事件と断定し、中野署に捜査本部を設置した。
遺体は玄関に全裸のままあおむけで倒れており、鬱血した顔にはタオルケットがかけられていた。死因はヒモ状のもので頸部を絞められたことによる窒息死。顔には傷があり、口の中には出血も見られた。
「殺害推定時刻は25日の午前0時40分頃。近隣の防犯カメラや携帯電話の履歴からすると、帰宅直後に玄関で襲われた可能性が高い。当日着ていた衣服が見つからないことから、犯人は殺害後に衣服を脱がせて持ち去ったのでしょう」(社会部記者)
捜査関係者が首をかしげながら現場の状況を語る。
「遺体の口と上半身、乳首のあたりから、犯人のものと思われる唾液が付着していたものの、強姦などの痕跡はなかった。爪からは、抵抗した際についたと見られる皮膚片が見つかりました。ただ、指紋は残されておらず、加賀谷さんのスマートフォンは室内に残されている一方で、リュックサックやトートバッグ、部屋の鍵が持ち去られ、施錠されていました」
唾液と皮膚片からは、いずれも男性のDNA型が検出されている。
加賀谷さんは出身地・宮城県内の大学を卒業後、女優を目指して単身上京。アルバイトで生計を立てながら劇団に所属していたが、今年5月に解散し、新たな劇団で活動を始めたばかりだった。アルバイト先の居酒屋の同僚女性が言う。
「明るく真面目な人でした。一度も無断欠勤したことがなかったのに、勤務日に店に来ない。心配していたところ、所属する劇団の団長から『2日連続で稽古を休んでいて、連絡もつかない』と店に問い合わせがありました。心配になって店長が彼女の自宅を訪れたところ、部屋に電気がついているのに応答がない」
そして警察に通報すると、変わり果てた加賀谷さんの姿が発見されたのである。