ホームドラマがテレビの王様だった70年代。その牙城に、圧倒的な個性で切り込んだのが「寺内貫太郎一家」(74年、TBS系)だ。巨漢の主人公を演じた小林亜星(83)が“嵐の季節”を回想する。
名脚本家の向田邦子さんは、貫太郎に自分の父親を重ね合わせていたんです。だから主役の条件はただ一つ「太っていること」でした。
最初に白羽の矢が立ったのはフランキー堺さんで、次はドリフターズの高木ブーさん。ところが、どっちも忙しくてオファーを断ったんですよ。
困った久世光彦プロデューサーがいろんな人に声をかけて、最後に候補になったのが僕。あの頃、110キロはあったから体形は問題ない。ただ、当時は長髪にパンタロンのナンパな姿をしていた。
「スケベそうでイヤ!」
向田さんはそう言って拒否したけど、他に候補もいない。久世さんにTBS内の理髪店へ引っ張られて、そこで坊主頭ですよ。ようやく向田さんも納得してくれました。
芝居経験もなかったし、断髪式までさせられたけど、作曲家としてTBSは大のお得意さん。断るわけにはいかなかった(笑)。
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頑固で短気な石材店の主人に亜星が扮し、老女のきん役を悠木千帆(現在の樹木希林)、貫太郎の息子・周平に西城秀樹、お手伝いに浅田美代子など豪華キャストがそろい、平均視聴率31.3%を獲得した。
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名セリフ? そりゃあ、やっぱり、きんさんが身をよじらせての「ジュリ~~~!」かな(笑)。貫太郎は口数が少ない役どころだったから、自分で記憶するセリフはないんですよ。
あ、でも名セリフではないけど、久世さんはドラマなのに生放送をやったんです。そこで僕が奥さん役の加藤治子さんを突き飛ばして、本来は役名の「里子」と呼ばなきゃいけないのに、その日だけ「治子さん」と呼んじゃった。まあ、生放送ゆえのいたずら心もあったのかな。
貫太郎といえば、ちゃぶ台を引っくり返すし、息子役の秀樹とは取っ組み合いの大ゲンカばかり。ドラマのこととはいえ、お互い、当たりが強かったりすると「この野郎!」と本気になることはあるんですよ。
それもあって秀樹を庭まで突き飛ばして、ギプス姿になるほどの骨折をさせてしまった。そしたら女子高生から脅しの手紙が舞い込む。
「お前のチ○コ引っこ抜いてやる!」
ファンというのは怖いなと思いましたよ。それにしても当時はちゃぶ台からすぐ立ち上がれたけど、今の体力ならよつんばいにならないと無理だな(笑)。
あのドラマはただのホームドラマではなく、娘(梶芽衣子)に墓石を倒して後遺症を残したとか、続編では長男(谷隼人)がレイプ事件の加害者であるとか、影の部分も描いていた。それが名作と呼ばれた一因でしょうね。