契約更改は年に1度、球団フロントと意見交換ができる場でもあることから、チームリーダーからの切実な環境改善要求もよくある。このオフもオリックスの選手会長、伊藤光(26)が「試合後に自主トレをする選手が多いが、菓子パン程度しか用意されていない。栄養面でも問題がある。何とかならないか」と、菓子パン廃止を要求。
もう一つ、よくあるのは、クラブハウス内の風呂の改装である。かつては中日の選手会長だった田尾安志(61)がそれを要求したが、このオフは楽天の則本昂大(25)も、ビジター用のロッカーに風呂を作ることを提案している。
「DeNA・林昌範(32)が、横浜スタジアムのブルペンに夏場にブンブンと飛んでくる虫の駆除を求めたのは珍しい例でしょうね」(球団関係者)
さて、交渉の場でしばしば問題になるのが、提示する側である球団フロントの暴言や不手際だ。査定担当者に加え、選手のクラスに応じて球団代表や社長までが同席するが、暴言が引き金となって「事件化」したケースもあるのだから。スポーツ紙デスクが明かす。
「何かと問題発言の多かったダイエー(現ソフトバンク)の高塚猛球団代表は、エースの工藤公康(52)に対し、『キミが登板する火曜日は客の入りが悪い』と言い放ちました。激怒した工藤はFAでの巨人移籍を決めたんです。西武では秋山幸二(53)が、清原和博(48)より年俸が低い理由として『キミには清原に比べて何かが足りない』と言われ、翌年発奮したケースもある。近年、代理人交渉も増えていますが、結局は人対人。言葉や感情が交渉の行方を左右させるんですよ」
あの手この手を繰り出すのは年俸を1円でもアップさせようとする選手側だが、球団も1円でも給料を抑えようと仕掛けてくる。「優勝していないからこれ以上は無理」は常套句。エースや4番の契約内容を伝え、「エースでもこの値段なんだから、キミを上げるとバランスが取れない」と論破するのもよくある手法である。
15年限りで引退した、3度ノーヒットノーランを逃した男、西武・西口文也(43)は、保留しないことで有名だった。だが、球団側が他の選手に「西口を見習え!」という殺し文句を使い始めたため、若手選手が困惑。「西口さんもゴネてくださいよ」と頼み、西口がチームメイトのために保留をしたこともあったという。
「超ユニークだったのは、73年オフにロッテの金田正一監督(82)が採用した郵便契約更改でしょうね」
NPB関係者がこう振り返るのは、選手に来季の希望年俸と球団への意見を紙に書かせて、球団に封書で郵送させたというやり方である。
「それを見たうえで球団側は契約更改に臨むわけですが、多くの選手が希望を受け入れられて年俸アップ。実は形として残る文書に高額な数字を書き入れる選手は少なかったからです」
怒号と爆笑入り乱れる密室のドラマ。今年のオフには、また新たな銭闘が繰り広げられる。