ただ、対照的な両者にも奇妙な符合とも言うべき「共通点」がある。まず特筆すべきは、「オタク気質」だ。報道によれば、寺内は中学時代の同級生からは「鉄道オタク」として認識されており、自作ゲームなども発表。高校生になると、「美少女アニメ」が好きだという証言も出てきた。
一方、Xも「自動車」と「アイドル」に対して「オタク」と呼んでも差し支えないほどの執着を見せていた。私は少女が9年2カ月過ごした「監禁部屋」に足を踏み入れたことがあるのだが、そこにはXのコレクションである、スポーツカーのパンフレット、ラミネート加工した写真、さらにはファンだった西村知美、岡田有希子などが出演したビデオテープが大量に保存されていた。もちろん、「オタク=犯罪者」などというレッテル貼りをするつもりは毛頭ない。が、ふたりの「監禁男」がともに「美少女」「清楚系アイドル」に対して強い欲望を抱き、オタク的な強い執着心を持っていた興味深い事実である。
何よりも寺内とXに共通するのは、長期監禁を可能とさせた「卑劣な手口」だ。報道によると、寺内は少女を誘拐した際に、「お父さんは私から借金をしている。借金のかたにあなたを預かる」というウソをついている。つまり、「親に捨てられた」と思い込ませようとしたふしがあるのだ。
これならば、事件発覚直後に一部から指摘された「謎」も説明できる。
大学キャンパス横のアパートという監禁場所に加え、寺内が大学の授業やドライブで不在がちだったことが明らかになっていく中で、「なぜ少女は逃げようとしなかったのか」という疑問の声が上がり、中にはまるで少女に逃亡の意志が乏しかったかのようなことを暗に匂わせるような論調もあった。しかし、このような「ウソ」をつかれていたとしたら、「逃げてもすぐに連れ戻されるに決まっている」という考えに至っていた可能性が高い。
つまり、「絶望」が積極的な逃走を思いとどまらせていたかもしれないのだ。
実はこれは新潟の監禁事件にも当てはまる。意外に思われるかもしれないが、Xは9年2カ月の監禁中、少女をロープなどで縛って自由を奪うこともしていなかった。誘拐直後にスタンガンで脅したことは認めたものの、それ以外の暴力もかたくなに否定している。また、少女をひとり家に残して、母と出かけることもあった。その際には部屋に鍵をかけて閉じ込めることはしなかった。私自身も「監禁部屋」に入ったが、ドアや窓もごくごく普通の民家にあるもので、特殊な施錠などはされていなかったことを確認している。
では、なぜ少女は逃げなかったのか──誘拐直後に「逃げてもすぐに連れ戻してやる」「お前が逃げたら代わりに姉さんを連れてきてやる」「誘拐されて死んじゃった子のようになりたいか」などと執拗に脅され続けたことが大きい。それくらいで逃げないというのは考えづらいと思う人もいるかもしれないが、それはあくまで「大人の論理」だ。9歳の子供からすれば、28歳の大人から与えられる「驚愕」が心に及ぼすダメージというのは、我々が考える以上に絶大なのだ。
◆窪田順生(ノンフィクション作家) 1974年生まれ。「フライデー」の取材記者、月刊誌編集者、全国紙記者などを経て、ノンフィクション作家となる。「14階段─検証 新潟少女9年2ヵ月監禁事件」で小学館ノンフィクション賞受賞。